週刊金曜日 編集後記

1079号

▼今週号の表紙には石川梵さん撮影の「スクープ」を掲載した。東京電力福島第一原発1号機の格納容器ベント(原子炉格納容器の圧力を下げるための緊急措置)が、これほどはっきりわかる写真は、いまのところ石川さんの写真だけだ(撮影の経緯は21ページ参照)。東京電力が公開しているベントの写真は、同社事故報告書の添付資料にあるが、ふくいちライブカメラの映像で、「蒸気のようなもの」が写っているにすぎない。
 国会事故調の委員だった田中三彦さんはこう指摘する。「ベントの激しさを物語るすごい写真です。写っている白煙は水蒸気と水素、放射性物質<希ガスのキセノンや、ヨウ素、セシウムなど>です。この放射性物質は南風に乗って北上し、宮城県の女川原発でも観測されました」
 放射性物質の大量放出はこのベントから始まったが当時、住民に公表されなかった。いまも続く"隠蔽"と"ごまかし"の原点でもある。隠された事実の掘り起こしが何よりも重要だ。(伊田浩之)

▼「私の体はワインでできてる」と宣った俳優がいたが、私の場合ビールとパン、かも。しかし、朝食にパンを食べるとなぜか体調が優れない。そんなとき『ジョコビッチの生まれ変わる食事』を手にした。(小麦など麦類に含まれる)グルテン不耐症がわかった彼は、徹底してそれを排除する食生活にシフト。結果、劇的に身体と精神が変わり、いまの活躍がある、と。
 やってみました、「グルテン抜き」の2週間。気をつけ始めると、こんなものにも小麦が? と驚きの連続。味噌は出汁入りはやめ、醤油はたまり醤油。外食でもドレッシングのかかったサラダは残した。結論を言うと、私の場合おそらく不耐症ではないので劇的というほどの変化はなし。が、小麦を遠ざける意識=加工食品をとらない生活につながる、という発見は大きかった。ビールは再開したが、血糖値を急激に上げる朝のパンはやめた。ついでにテニスも始めれば完璧、かも。(小長光哲郎)

▼5年前のあの日は、地震後、電車がまったく動かなくて家に帰れず、会社で一夜を過ごしました。翌日、電車が動き出し家に帰れましたが、途中、電車のドアが開くとヒバリのさえずりがのどかに飛び込んできて、前日との対比にクラクラしました。
 しかし大変だったのはその後で、計画停電で電車がほとんど動かず、出社できない日が続きました。わが家も確か1週間ほど、毎日停電でした。知ってます? 完全に電気が止まると、家の中が無音になるのですよ。3時間の停電が終わって電気がついたとき、世の中から忘れられていなかったと、ほっとします。電気ってありがたいなあと実感しました。
 何日も出社しないわけにはいかないので、かなり無理して出てみると、その頃、自宅周辺のスーパーには何もなかったのですが、東京のデパートにはモノがあふれていました。心底、クラクラしました。(渡辺妙子)

▼「死に物狂いでやってるつもりですが足りないということなので頑張ります」「応援してくださってる方に申し訳ない」
 これは先のリオ五輪・女子サッカーアジア最終予選での宮間あや主将の敗戦の弁だ。人一倍責任感の強い彼女ならではの殊勝なコメントのようにも思えるが、スポーツ選手のこの手のコメントを聞く度に私は、強い違和感を覚える。
 誰のためのスポーツか。中学生のアスリートがメディアに煽られ国や親のためにメダルを取りますと宣言する姿はあまりに滑稽だし、それを重圧に感じ、本来の力を出し切れないのは本末転倒だろう。
 だが政治の世界となると話は別だ。為政者とは、まつりごとを為す者だが、私利私欲のために市民を偽って、それを為す者ではない。
「憲法九条の改正は国民の生命と財産を守るため」「東京五輪の開催は東北復興のため」......。
 これほど空々しい政治家の言葉もないだろう。(尹史承)