週刊金曜日 編集後記

1082号

▼深夜のテレビ番組を見ていたら、厚切りジェイソンがある人の部屋に一晩泊まりにいくという企画をやっていました。「ある人」とは、今号から「ミニマリズム幸福論」の連載をお願いした佐々木典士さん。内見か!? と思うくらい、佐々木さんの部屋は何もありませんでした。
 ミニマリズムとは「最小限主義」と訳されます。必要最小限のモノしか持たない、その実践者がミニマリスト。モノに囲まれ、モノを消費する生活が当たり前になっている現代社会において、単に「モノを減らす」だけでなく、「幸せとは何か」という根源的な問いかけを包含しています。佐々木さんの連載で、幸せのベクトルを見直してみませんか?
 はい、そんな文脈で、電力小売自由化です。もっともっと電気がほしい、もっともっと便利になりたい――そんな「もっともっと」が行き着いた先が原発事故だったと思います。その教訓を生かしたいところですが、残念ながら再生可能エネルギー事業者数はまだわずか。でも、あせらず、未来を考えた選択をば。(渡辺妙子)

▼いつまで、こんな茶番劇を続けているつもりなのか。ブリュッセルで起きた「テロ事件」では、例によってIS(「イスラム国」)対策が語られ、「テロを許さない」の大合唱が起きた。だが、そのISの兵站・補給基地はいったいどこにあり最大の資金調達国はどこか、という初歩的な問題すら、誰も語ろうとしないし、知ろうともしない。それは、当のブリュッセルに本部を置くNATO(北大西洋条約機構)の加盟国にして、欧米の「同盟国」のトルコだ。ISを壊滅したかったら即刻トルコに支援を中止させて追い出させ、難民を増やしたくなかったらシリアとの国境線を封鎖させて、ISに越境攻撃も石油の密貿易もできなくすればいい。だが、「反テロ」の「旗手」の欧米が口が裂けてもそうした要求をトルコにしないのは、彼らが狙うアサド政権転覆という間接侵略のためにISが重宝だからにほかならない。その結果、欧州が難民の大津波に直撃されているにもかかわらずだ。そんな欧米の腐った偽善ぶりと、トルコの加担を報道しない欧米メディアの共犯性は、醜悪極まる。(成澤宗男)

▼ミニマリストにはほど遠い生活をしているが、この頃「物欲」について考えることが多い。
『物欲なき世界』(菅付雅信=著、平凡社)に、<日本は、先進国の中で最も早く資本主義の限界に突き当たっている>と記されていた。消費が飽和した社会に生きるということは、もっと生活を意味があるものとして「目に見えない価値」を自分の頭で一人一人が再定義することなのかもしれない。たとえばサードウェーブコーヒーの店で体感する"あの感じ"である。代表的なブルーボトルコーヒーは、生産者に利益が回るフェアトレードの有機栽培豆を使用し、新鮮な豆だけを使い、注文を受けてから1杯ずついれる手法をとる。手間も時間もかかるし、シアトル系のコーヒーなどより価格は高いが、その姿勢に「共感」する客は、わかった上で行列してでも待つ。
 世界を被う閉塞感の中で思う。「もう欲しいモノはあまりない気がする」という人が世界中で増え続けている。この新しい潮流はささやかな希望かもしれない。シェアしよう。ハグしよう。(本田政昭)

▼安倍首相は消費税増税を先送りして、衆参同日選挙を行なった。ここで勝って一気に憲法改正に突き進むはずだった。ところが、投票率が70%を超え、自民党は惨敗、公明党と合わせても過半数に及ばず、野党の連立政権が誕生した。というのは、あくまでエイプリルフールの話。参院選ではおごれる自民党に一矢報いたいものだ。
 3月20日、「市民の意見30の会・東京」と弊社共催の講演で中野晃一さんは、自民党は投票率が上がることを恐れている、周りの人に話をして野党に票を集め、与党3分の2議席を阻止しようと語った。自民党が野党を批判する「野合」の意味があんなことだったとは...。また、高遠菜穂子さんのイラクの体験談は、その迫力に場内が圧倒され、著書『破壊と希望のイラク』(弊社刊)が飛ぶように売れた。そして3月26日は代々木公園の脱原発集会に出店。今年も販売は好調だったが、とりわけ、NHKの内部告発を収録した『安倍政治と言論統制』(弊社最新刊)をNHKの目の前で売りまくったのは痛快だった。(原口広矢)