週刊金曜日 編集後記

1088号

▼テーマは「なりたかった大人になれなかった大人たち」。是枝裕和監督の新作『海よりもまだ深く』は、切なさが沁みる映画だった。
 子どもの頃に何に強く憧れるかは、人生に大きく影響すると思う。私のそれは、恥ずかしながらミュージシャンだった。天才肌、つまり「音楽はとびきり、他はからっきし」「論理より感性」な人が常に憧れの対象。ライブで演奏するたった7曲が憶えられず、ギターに曲順メモを貼り付けていた、なんて逸話に「記憶力悪いんだ、カッコいい!」と遠い目をする子どもだった。そのままミュージシャンになれたらよかったのかどうなのか、気づけば編集の仕事をする大人に。憧れのせいかおかげかどうなのか、論理的思考にも博覧強記にも程遠く、苦労している。
 そういえば先日、ある調査で小学生の「なりたい職業」第3位が「ユーチューバー」で驚いた。おいおい......と首を傾げたが、ま、余計なお世話か。彼らも、なるようになるんだろう。(小長光哲郎)

▼米国・ポートランド発のライフスタイル誌『KINFOLK(キンフォーク)』が提唱する<スモールギャザリング=親しいものによるちいさなコミュニティがつくりだす繋がり>という新しいライフスタイルの提案が世界中で共感を呼び、たいへん話題になっている。コンセプトは理解できるし、多少影響も受けたが、しっくりこないこともある。登場する人々の生活が美しすぎるのだ。これって嫉妬?
 パナマ文書は「世界は富裕層に有利なルールで成り立っている」ことを、救いようもないほどハッキリさせた。これでは「世界金融市場の信用落ちた世界死ね」だ。99%のひとりとして、今こそ橋本治的に「貧乏は正しい!」と言い切って、清く正しくシンプルに暮らしていきたい。ミニマリズムをはじめとして、世界中で新しいライフスタイルが模索され、情報は日々更新されている。メーテルリンクの「青い鳥」のように、本当に大切なものは身近にある気がする。金だけじゃない。(本田政昭)

▼去年7月にリブロ池袋本店が閉店し、跡地に三省堂がオープンして、はや数カ月。売っているのは両社とも本と雑誌とコミックで、ラインナップはそう変わらず、売り場面積も同じ――なのに、雰囲気が全然違っていて不思議です。いや、別に、どっちがいいとか悪いとかじゃなくて、リブロのイメージが強すぎて、まだ三省堂になじめないというか。
 ところで私が好きなのは、台湾の誠品書店という書店です。お客さんが床に座り込んで一心不乱に本を読みふける、独特の雰囲気が好きです。24時間営業の店舗に行くと、真夜中だというのに大勢の人が座り込んで本を読んでいる。立ち読みはツライお年頃、試しに「座り込み読み」してみると、とても居心地よくて、何時間でもいられます(笑)。
 文化発信基地として機能する誠品のビジネスモデルは、日本の書店も真似するところが出始めているそうですが、座り込み読みも真似してみませんか?(渡辺妙子)

▼連休が明けると書籍常備の入れ替え準備だ。常備とは正式には「常備寄託」という。出版社が書店に一定期間、本を寄託して(預けて)売れたら補充するという仕組みである。弊社は1年常備なので毎年7月に書店に送品し、その後書店が返品して精算となる。常備の品揃えは売れ筋に絞っているため基本は変わらないが、若干新刊と入れ替えている。今年の常備には最新刊『セブン-イレブン鈴木敏文帝国崩壊の深層』を加えた。
 本書は、セブン-イレブン本部が、加盟店を支配するために自衛隊のような組織にしたり、発注を強要させ、あろうことか仕入値をピンハネしている疑いがあったり(セブン仕入原価とスーパー店頭価格の比較表あり)様々なやり方でお金を搾り取る実態を暴く。最期までセブン商法追及に執念を燃やした渡辺仁さん。かつて彼と著書の販促の議論をしたことがあった。ここに増刷を報告し謹んで哀悼の意を表します。(原口広矢)