週刊金曜日 編集後記

1096号

▼映画『ダイ・ハード2』は雪のダレス空港が舞台だった。スノー・モービルでの銃撃戦。いつもどおりジョン・マクレーン刑事は孤軍奮闘。相手から奪った銃で応戦するが、当たっているはずなのに相手が倒れない、それでその銃弾が空砲だと見抜く。
 一方、北海道の自衛隊北部方面後方支援隊第310輸送中隊は、今年5月23日の然別での空砲演習(物資輸送移動中、敵襲に応戦する想定)で、16人のうち9人が撃った79発が実弾だった。
 6月21日各紙が追い記事を掲載。輸送、点検、装填にいたっても誰ひとりそれが実弾だとはわからなかったとのこと。見抜けなかった。そして発射!「今後は厳重注意します」(でも誰にも当たらなくてよかったなあ)ではすまない話だろう。場合によっては演習中に全滅(死亡)もあり得たのだ。
 未熟で、度しがたく、危険なマヌケ集団である。これならばむしろ9条に則り、今後実弾の装備、演習は一切やめたほうがいいのではないだろうか。(土井伸一郎)

▼前かがみで弾丸のように走るその男の姿は今でも忘れられない。陸上短距離カナダ代表のベンジョンソン。1988年のソウルオリンピックで100メートル9秒79という世界記録をたたきだした。しかしレース後のドーピング検査で陽性反応が出る。金メダルは剥奪され、記録は幻となった。
 当時6歳だった私は混乱した。あとでバレるとわかっていながら、なぜそんなことをしたのか。そうまでして束の間の"世界一"に浸りたかったのか。弾丸の姿が忘れられないのは、6歳の頭にはのみこめない世界の現実が記憶の芯に刻み込まれたからだ。
 実は、今でもあの時の謎は解けていない。来月のリオデジャネイロ五輪にはロシア陸上選手の大半がベンジョンソンと同じような理由で出場できなくなった。「スポーツの祭典」とはよく言ったものだ。
 今回の特集は広大な謎の一部分を掘ってみた。これで全体がわかるとは思わないが、取材を通し、部分だけでも知れてよかったと個人的には思っている。(野中大樹)

▼今回の参院選で、個人的に注目していたのは、野党統一候補の帰趨とその評価である。共産党本部での、自党の候補者だけでなく、他党出身の統一候補の勝敗に一喜一憂し、当選の花を付ける姿は、これまでの選挙にはなかった光景だった(笑顔が多少ぎこちなかったとしても)。結果的に、1人区では、沖縄をはじめ11選挙区で野党統一候補が勝利したし、SEALDsなどによる「3分の2議席の鍵を握る候補者17人」の応援活動(4ページ金曜アンテナ欄参照)も注目すべき動きだった。
 確かに「改憲勢力3分の2」の結果に暗澹たる気持ちになるし、野党共闘に貢献したSEALDsは、残念ながら今回の選挙後、「解散」を表明し、本稿執筆時点で、東京都知事選での野党共闘も不透明ではある。しかし、野党各党や市民が、今回の選挙で示した「共闘」はまだ緒についたに過ぎない。これを「第一歩」として、その芽を育てていってほしいと心から願わずにいられない。(山村清二)

▼7月7日は盧溝橋事件から79年。新聞の関連記事は、翌日8日、中国の最高指導部が対日配慮で式典欠席したのではないかという記事くらい。ナチスとの断絶が強調される現在のドイツと違って、戦前の国家体制との連続が肯定される日本では、大日本帝国の悪行を告発することは自動的に「反日」と認定される、という判断が中国政府にあるのだろう。いわゆる護憲派ですら安倍首相をヒトラーになぞらえるのは大流行したのに東条や裕仁にたとえるのは皆無に等しかったところにその判断の正しさが端的に表われている。
 早川タダノリさんの新刊『「日本スゴイ」のディストピア』(青弓社)は昨今巷間に溢れる自画自賛言説のルーツを戦前戦中の書籍から紹介している。面白く読みながらも、戦前のリベラル紙『土曜日』の復刻版(三一書房)に中国への優越感と日本スゴイが綯い交ぜになった記事をいくつも見つけたことを思い出す。歴史を繰り返さないためには歴史に学ばなければならないのだが。(原田成人)