週刊金曜日 編集後記

1097号

▼今週号の特集は、編集委員が執筆した前号に引き続き、参院選の結果から今後の政治や社会のありようについて考える第2弾です。年代や職業、思想的立場など、さまざまな方に登場いただきました。
 ゲラを読んだ編集長の平井が「特集タイトルは筆者に伝えてあったの?」と聞いてきました。
「いいえ。依頼時点ではタイトルが未定でしたから、選挙結果を基に今後の日本の進路について書いてくださいとお願いしています」
「やはり改憲への危機意識を持つ人が多いんだね」「そうですね」
 改憲動向に影響を与える東京都知事選がはじまっている。自民東京都連(石原伸晃会長)は「各級議員(親族含む)が、非推薦の候補を応援した場合は、党則並びに都連規約、賞罰規定に基づき、除名等の処分の対象となります」との文書を出したが、あろうことか石原会長の弟、石原良純氏がテレビ番組で鳥越俊太郎候補をほめたため、ネット上では「伸晃、まさかの除名か」と炎上している。そもそも親族の言論を統制しようとする自民は噴飯物だが、馬脚を現したともいえよう。(伊田浩之)

▼自民党や公明党が推した、ここ何代かにわたる東京都知事が、いかに恥ずべき言動をしてきたか、都民はよもや忘れていませんね。週3日しか登庁せずに豪華宿泊船クルーズなど海外出張に莫大な税金を使い、外国人や女性へのヘイトスピーチまがいの差別的言動を続けたイシハラ、右翼の男の仲介でワイロに近い5000万円のカネを懐に入れながら隠していたイノセ、そして公用車と政治資金の不正な使いみちを問われ、逃げ出すように辞任したマスゾエ......。
 彼らを支援した側は反省した形跡もなく、今度は分裂選挙だという。そもそも取り返しのつかない事故汚染被害をもたらした原発の再稼働を進め、憲法違反の指摘を無視して戦争法をつくるような自公から推されること自体、恥ではないか。昨日までそこに所属し、右派組織「日本会議」国会議員懇談会役員を務めた人も同様だ。両党と無関係でかつ批判できる知事を選べる好機だ。"東京ワイロ五輪"を追及し、戦争法廃止の先頭に立つような首都のトップが誕生すれば、世界が刮目するだろう。今度こそ賢明なる一票を。(片岡伸行)

▼ここまで世の中がおかしくなると、ナチスの台頭を許したドイツ30年代の歴史的教訓に目を向けたくなるのは、当然かも知れない。そこでは悪しき集団に「騙された」という点からの、現在と当時のドイツとのアナロジーが散見されるが、比較は困難だろう。ナチが国会で第一党になった1932年7月の選挙は投票率が70.84%で、ヒトラーを首相に押し上げる結果となった同年11月のそれは、80.58%だ。「騙される」という過失は、その前に自分なりに何かの問題を考えて期待したり、ベターと思われる策を選択した結果に生じる。今回の参議院選挙の投票率54.7%という数字は、おそらく何も考えもしなければ期待もせず、公的問題にほぼ無関心の層が膨大に存在する事実を暗示している。彼らは「騙される」ことなく改憲集団の跋扈を黙認し、民主主義の破壊を傍観し続けるのだろう。ならば「改憲与党」の得票率以上に、こちらの方が深刻な事態ではないのか。まともな多数派形成の途が、もはや極めて限られているということなのだから。(成澤宗男)

▼当社は6月末決算、今月から新しい年度がスタートしています。営業面で前期を振り返ると、実は出版した8点の単行本のうち、なんと6点が増刷となりました。特に昨年9月刊行の『私の1960年代』は、多くの書評に掲載され10刷を数えています。そして話題書となった『1★9★3★7』も初版の9割近くを消化、本来ならば増刷に踏み切っていた書籍で、増刷率9割越えも現実のものでした。一方、本誌の書店販売は個々に浮き沈みはあるものの、安定した売れ行きと部数を維持しており、超氷河期の週刊誌市場のなかで少部数ながら店頭で存在感を示しています。定期購読は昨年7月から発送方法を「ゆうメール」に変更し、それを受け購読料金の改定を行ないました。その影響もあり過去最低の部数を記録しましたが、各種団体との交換チラシや、DM発送、購読の呼びかけ等々が功を奏し、持ち直しています。ちなみに安倍政権以降、国政選挙の直後は購読申込みがピタリと止まるのですが、今回、参院選後の申込み状況は堅調です。(町田明穂)