週刊金曜日 編集後記

1101号

▼「優生学上の見地から不良な子孫の出生を防止」と明記された優生保護法が、母体保護法に改正されたのは1996年だ。94年に、国際会議で同法の問題を訴えたのが、生まれつき骨形成不全症で、小誌にも度々登場している安積遊歩さん。その安積さんが、先日、北海道札幌市内でバスの乗車拒否にあった。偶然通りかかった池田真紀さん(民進党)がFacebookに載せ、怒りと同様の体験を持つ人たちの声が急速に広がっている。
 相模原殺傷事件の容疑者の動機は個人的なものにみえるが、彼を生み出したのは、「優生保護法」があった20年前と変わらない、障がい者を排除する私たち自身の「空気」ではないか――安積さんにそう問うたら、「その通り。出生前診断で九十数%の人が障がいを持つ子どもを中絶しているというニュースが当たり前に受け入れられているのですから」との答えだった。自分と同じ障がいがあるとわかっても生み、育てた安積宇宙さんは今、二十歳だ。(山村清二)

▼大也(だいや)に騎士(ないと)に月(るな)に蘭菜(らな)......。ついに、きらきらネーム選手が活躍するようになったんだなーと、オリンピック中継を見ていて感無量だったのは、私だけではあるまいて。児童虐待系のニュースなどでも、子どもの名前にきらきらネームが目立つようになりました。きらきらネームはもう当たり前になりつつあるんですね。この調子だと、4年後の東京オリンピックでは、さらに読めない名前が出てくるのは必至でございます。
 ところで今号でアイヌ特集をやることになり、参考資料ということで、初めて『ゴールデンカムイ』を読みました。大変おもしろうございました。アイヌの狩猟や生活のさまざまな智恵に感心しつつ、マンガならではの読みやすさに(この手の作品にありがちな教科書的な説明臭さがまったくない)没頭。アイヌのマンガといえば、石坂啓編集委員の『ハルコロ』(原作は本多勝一編集委員)も、読んでみてくださいね。(渡辺妙子)

▼「チャンゴ」という朝鮮半島の打楽器を習い始めて数年が経ちました。でも、これが本当に難しく、まだ全然思い通りに叩けず、もう放棄したほうがいいのではないかと思ったり。それでも続けたいと思うのが、チャンゴ(芸能音楽)を通じて自然と日本と韓国・朝鮮の歴史に触れる機会があり、何よりも魅力的な人と出会えることが楽しいのです。ある韓国人の先生は、沖縄の辺野古に行き、ボートに乗って基地建設反対を訴えたとか(一緒に行った友人は日本入国禁止に!)。まったく別の機会に知り合った人も辺野古に行ったと話してくれた。他にも、若い頃は、平日は仕事、土日はデモで忙しかったとか(今もか?)。そんな、ふとした瞬間にその人の人となりを知れることが面白いのです。
 さて、9月3日の「関東大震災93周年 韓国・朝鮮人犠牲者追悼式」で行なわれる風物にも、知り合いが何人も出ると聞き、今年は荒川河川敷に行こうかと目論んでいます。(弓削田理絵)

▼『増補新装版 障害者殺しの思想』(現代書館、2015年)は、もう忘れ去られようとしている7月に起きた障害者施設での殺戮事件の背景を考える上で欠かせない1冊だ。同書の底本の出版が1979年であることはこの「思想」が決して今に始まったものではないことを示している。人間を価値あるものとないものとに選別し後者を排除する「思想」。ふと、既視感を覚えて、法務省入国管理局ウェブサイトのトップページにあった次の文言を思い出した。「入国管理局では(中略)我が国にとって好ましくない外国人を強制的に国外に退去させることにより、健全な日本社会の発展に寄与しています」。この文言は今年1月にリニューアルした同局サイトからは消されたかに見えた。しかし、いまだに表から見えないメタタグ(サイト内容などを記述するHTMLタグ)のなかに全文が残っている。「優良不良」の選別に政府がなんの疑問も感じないどころか、大きな意義を見出しているようで背筋が凍る思いがする。(原田成人)