週刊金曜日 編集後記

1102号

▼「護憲派」という用語になじめない。「9条擁護」派から評価されている憲法前文に「政府の行為によつて再び戦争の惨禍が起ることのないやうにする」云々の文言があるが、彼らにとってその「戦争」とは、多くから「自衛」のためだったと見なされている日露戦争も含まれているのか。そして日清戦争は?「護憲派」で「軍隊は住民を守らない」と信じている向きもあるが、「バトル・オブ・ブリテン」でナチスの侵攻を食い止めた英国空軍は、「住民を守った」のではないのか。同時期の「冬戦争」で、スターリンの魔手を撃退したフィンランド軍も同じだろう。戦争法の制定時、最終的に反対論の根拠となったのは「自衛隊違憲論」ではなく、「個別的自衛権」を認めた歴代自民党政権の憲法解釈だったが、「護憲派」はそれを是としているのか。「改憲」阻止は重要だが、この70年余り「9条」が変えられなければ良しとする知的怠慢の結果、もたらされた「脇の甘さ」は深刻だ。これらの問いへの回答は自身の課題でもあるが、課題の存在すら意識してなさそうな集団に親和性は感じない。(成澤宗男)

▼呼称がいったん固定されるとなかなか変えられない、というより変えようとしないのが日本のメディアの傾向でもある。その一例に"ブラック企業"が挙げられる。「わかりやすいから」「もう定着している」といった理由で便利使いされるこの呼称。しかしブラックを負のイメージで使うことについては多方面からの抵抗が絶えない。
 1950年代から顕著になり、現代に連なる米国の黒人公民権運動では"Black is Beautiful"(黒は美しい)が高らかに掲げられた。民族や地域によっては漆黒を至高の色として尊重するところもある。
 細井和喜蔵の1925年の著書『女工哀史』には、「虐使」という呼称が登場する。1910年代から20年代はじめ、紡績業・綿織物業に従事した若い女性の多くは寄宿舎に住み、1日に16時間~17時間の労働を強いられた。休日はおおむね隔週1回、低賃金かつ劣悪な環境で、肺結核など心身を患う者もいたという(『詳説 日本史研究』山川出版社など参照)。
「虐使」こそ社会を穿つ言葉だと、私自身は考えている。(内原英聡)

▼7月26日に発生した「相模原障がい者施設殺傷事件」の衝撃は、オリンピックの感動と涙の絶叫でかき消されてしまったようだ。私事で恐縮だが、末の妹は重度の知的障がい者であり、8月に45歳の誕生日を迎えた。彼女は幾つかの内臓疾患を抱えて生まれたので、当時の医者は、成人することは叶わないだろうと話していた。それでも数回の外科手術を乗り越えて今でも大切な家族の一員である。
 本誌先週号の検証記事、海老原宏美さんの多角的な目線からの談話は示唆深いものであった。障がい者を排除する風潮は今に始まったことではない。容疑者の行動を称える声が聞こえることは、戦慄を覚えながらも今の社会を反映しているのだろう。私にとって障がい者を家族に持つことの現実は、バタバタとした日常の衣食住と、将来彼女が1人遺された場合のことである。それでも母親はよく言うのだ。「この子は神様からの贈り物なんだよ」と。綺麗事に聞こえるかもしれない、ただしこの妹がいなかったら、今ここ「金曜日」に私もいないだろう。(町田明穂)

▼9月中旬は弊社主催の講演会が続きます。まず一つ目は「金曜日文庫」第13回目を9月16日(金)に行ないます。写真家の大石芳野さんをお招きし、聞き手は弊誌編集委員の佐高信さん。題は「永六輔さんを偲ぶ」です。18時開場、18時30分~20時の予定。場所は、いつもと同じ寺島文庫(東京都千代田区九段北1-9-17 寺島文庫ビル1階)。参加費は1000円(1ドリンク付)で先着30人、要申し込み。申し込み先はFAX・03・3221・8522、またはMail・book@kinyobi.co.jpです。
 二つ目は『未来ダイアリー』の刊行を記念し、「憲法のつどい 『もしも、自民党改憲草案が実現したら?』」を開催。9月17日(土)13時20分開場、13時40分~16時30分で、こちらの場所は日本教育会館707号です。著者の内山宙弁護士や太田啓子弁護士(ともに「明日の自由を守る若手弁護士の会」)が登壇。参加費700円で予約は必要ありませんが、当日先着100人となります。問い合わせ先はTEL・03・3221・8521です。それぞれご参加お待ちしてます。(赤岩友香)