週刊金曜日 編集後記

1144号

▼かなり古くなった切手帳2冊が出てきたので、淡い期待を胸に、近くの区民ホールで行なわれた「無料鑑定会」に持っていったら「ご自身でお使いになった方がいい」と返された。パラパラ見ただけ。もう少しちゃんと見てくれよと思ったけれど、(無料だし)下を向きながらトボトボ帰った。
 小学生の時、「東京オリンピック」をきっかけに集め出した記念切手。魚介シリーズや国定公園シリーズ、浮世絵シリーズ、花や鳥、万博シート、東欧圏の使用済みなど、なぜか壹圓札に昭和42年の急行座席指定券まである。3万円くらいにはなると思っていたのに......。使用済みは思い切ってボロ切手帳と一緒に捨てた。あとは思い出とともに持ち(使い)続けようと決心し、文房具屋に切手帳を買いに行ったら「扱ってないなあ」。2軒目で1種類だけあった。1700円。もしかしたら、わがコレクションの中でこの切手帳が一番高いのかも、などと思いながら「切手集め」という昭和の遊びに想いを馳せた。(土井伸一郎)

▼誰にでも起こりうるはずのことなのに、介護について教えてくれる授業は、義務教育にはない。ほとんどの人が、ほぼゼロから介護をスタートするのが、この国の現状だ。先日、義母が入院した際に『ある日、突然始まる 後悔しないための介護ハンドブック』阿久津美栄子=著(ディスカヴァー・トゥエンティワン)を読んだ。親の介護に後悔を残してしまったという著者の介護の経験をもとに「介護中に知りたかった内容」が簡潔にわかりやすくまとめられていて、とても助かった。特に「介護で倒れてしまわないための10の心得」に記されている「介護手帳をつくる」ことは重要だと思う。介護中に記録を書くことで「自分と自分の置かれている状況」を客観的に捉えることは、介護者の混乱する気持ちを分析することとなり、冷静に介護と向きあうことにつながる。もしも今、家族からですら、「任せておけばいい」と思われているように感じ、孤独をひとりで抱え込んでいる介護者がいたら、一読をお勧めする。(本田政昭)

▼5月に猛威を振るったランサムウェア(身代金要求ウイルス)、ワナクライに続き、6月下旬ランサムウェア、ゴールデンアイがウクライナを中心に大きな被害をもたらしました。ゴールデンアイには、NSA(米国家安全保障局)からシャドウブローカーズ(ハッカー集団)が盗んだ、ワナクライと共通のツール=サイバー兵器が含まれています。
 こうしたサイバー兵器は、CIA(米中央情報局)でも大量に作られ、ウィキリークスが、「ヴォルト7」という名前で暴露しています。国家の作ったサイバー兵器は、コントロールを失い、民間、国家を問わずに使われる、サイバー戦争の時代に突入しています。
 ドイツでは、情報機関が作ったトロイの木馬(潜伏後に効果を表す偽装ウイルス)をテロ対策のため、市民に対して使用する法律が制定されました。これで市民の情報を根こそぎとり、監視できます。
 共謀罪が施行された日本で、今後、政府がサイバー兵器を使う可能性も否定できません。(樋口惠)

▼日曜日の午後、競馬中継前についみてしまう番組「ザ・ノンフィクション」。マキさんとジョンさん夫妻の物語は人気らしく回を重ねてきた。マキさんは男だが妻、ジョンさんは女だが夫という逆転夫妻。ジョンさんは介護の仕事で家計を支えていた。一方で定職につかず、自由奔放なマキさん。「マキさん働けよ、ジョンさんかわいそう」などと突っ込みながらみていた私たち夫妻にも、この後意外な展開が待っていた。後編の予告で「マキさんに会いたいと番組にある人から電話があった」という。そして顔は映らないが聞き覚えのある声は紛れもない久保新二だった。実はかつて私たちと久保さんとは家族ぐるみのつき合いだったが、今は疎遠になっている。久保さんの目的は座長を務める舞台にマキさんを誘うことだった。緊張すると言いながら、そつなくこなすマキさん。一世を風靡したピンク映画の帝王と六本木ゲイバーのダンサーの軽妙な絡みは何だか懐かしかった。私たちと久保さんの顛末はまたの機会に。(原口広矢)