週刊金曜日 編集後記

1165号

▼10年以上前、米国でイラク帰還兵の取材をした際、空軍の元整備兵が言っていた。「早く、間違った戦争から仲間を帰国させたいんだ」と。戦争とは人間が殺し合う行為だ。「仲間」がいようがいまいが、戦場に送られた若者たちの運命を想像するのは困難ではない。だが、自分は間違っても戦場に行かないのに、平気で「軍事力行使をためらうな」などと煽動する輩がいる。櫻井よしこ氏よ、72歳のあなたが銃を取る可能性は万に一つもないが、あなたが大衆に戦争もやむなしとばかり吹き込んでいる中国との武力衝突が本当に起きてしまったら、どこで何をするおつもりか。外野席から「中国兵を殺せ」とでも叫ぶのが関の山だろうが、戦場に送られる自衛隊員とその家族の運命を少しは慮っての、日頃の「言論活動」なのか。他者に「戦場に行け」と言わんばかりのあなたには、当事者であることを免れる立場ゆえにあってしかるべき「慎み」ぐらいないのか。それすらなさげなあなたに、これ以上勝手なことを吹聴してほしくない。(成澤宗男)

▼年明け1月11日(木)が幕開けとなる劇団俳優座の『いつもいつも君を憶ふ』の稽古を見せていただいた。演出の深作健太さんの「はい、お願いします」を合図に演技がはじまる。キリのいいところで止めると、はじめに戻って深作さんが一つひとつ細かく指示してゆく。エンターテインメント性を出したいと企画・製作・出演の有馬理恵さんと加藤頼さんが言っていたように、深作さんの演出でテンポが早くなり、あっという間に演技が変わるのが興味深い。
 とくにおもしろかったのは、歴史や設定をみんなで議論しながら確認していくところだ。この舞台は約100年を家族の正月風景でつないでゆくので、整合性がとれないとおかしなことになってしまう。その100年をつなぐ、もう一つの重要な役割が歌。聞けばそれぞれの時代の雰囲気が浮かんでくるから不思議である。そして、これらをじっと見つめ続けるのが時計だ。これは加藤さんのアイデアだという。時計の演技にも、ぜひ注目を。くわしくは54ページ。(吉田亮子)

▼地元の市の市民オーケストラと市民合唱団がやる第九演奏会に、今年も行ってきました。日本の年末になぜベートーヴェンの「第九」なのかは諸説あるようですが、第4楽章の大合唱は何度聞いても鳥肌が立つほどの迫力で、「ああ、もうすぐ1年が終わるのだなあ」と感慨にふけるにふさわしい曲のような気がします。
 それにしてもいつも疑問ですが、ソリストの方たち、歌っている時間よりも「待ち」の方が圧倒的に長く、舞台上であんなに声を出さない時間を過ごして、いきなり声出すのってきつくないのかな、と思います(しかも、あそこでこけたら全部台なし)。声楽に詳しい方がいらっしゃったら、その奥義を教えてください~。
 この市民公演に行くと「来年のメンバー募集」のチラシをもらうので、いつも「来年こそ参加したいなー」と思うのですが(一応、素人でも可と書いてある)、なかなか厳しいですね。友人はもう何年も、国技館で開かれている5000人コンサートに一家揃って参加しているそうで、ちょっとうらやましい。(渡辺妙子)

▼秋スタートのドラマも終わりかけ、トップで見事完走を遂げそうなのは「監獄のお姫さま」。裏切らないクドカンドラマ。ここのところ、がっかりしたことなし。大きな流れも小さな遊びも出演者もみんな楽しい、大好き。さらに"女囚"ものだけに切なさも充分。友情を培った監獄シーンと現在進行形の仲間の冤罪を晴らすために起こした現在進行中の犯罪シーンの間の場面転換の多さと、まだまだ予測のつかないストーリーにラストまで目が離せません。すでに見終わった二番手、「奥様は、取り扱い注意」綾瀬バルサはここでも大活躍。アクションシーンのレベルがとても高くて、ため息。平和な住宅街の家族たちの秘密や、"理想の旦那様"の正体を含め、予想を大幅には外さないストーリー展開ではあったけれど、どことなくからっとした質感が心地良かったドラマでした。三番手にして残り1本は「刑事ゆがみ」。スタートはややぎこちない感じの運びだったけれど、回を追うごとにテンポが良くなり、見続けてよかったと思えてありがとう。(志水邦江)