週刊金曜日 編集後記

1170号

▼中国に行ったとき、友人が「滴滴出行」でクルマを呼んでくれました。まあビックリですよ。きたクルマはちょっとした高級車で、掃除も行き届き、さらに運転は超ジェントル。しかも支払いは友人がアリペイで(逆に言うと、中国のスマホとアリペイなどの決済システムを持たない非居住者には滴滴は使えない)。中国のタクシーというと、汚い&運転が荒いので有名(?)ですが、滴滴はまったく違いました――。
 というのが私のライドシェア初体験ですが、単純に利用者としての感想をいえば本当に便利です。でもドライバー側から見える風景は? 「シェアリングエコノミー=いいこと」というイメージを持っている方は多いと思いますが、ライドシェアはさまざまな問題をはらんでいることを、今号の特集で知っていただければと思います。特にライドシェアドライバーのような働き方に対して、「自己責任だ」と突き放すのではなく、保護政策を講じるべきなのでないかと思います。(渡辺妙子)

▼安倍晋三首相が施政方針演説の筆頭に掲げた「働き方改革」だが、同じ演説にある「生産性革命」と表裏であることに注意したい。
「生産性革命」が列挙するロボットや人工知能(AI)は、無人コンビニなどが示すように労働者の削減に直結する。一方で「働き方改革」が長時間労働打破の例として推奨するテレワークや週3日勤務は、一見、労働者の「新しい働き方」のようだが、要するに、主業務は機械がやるから、人間は短時間勤務=低賃金に甘んじろ、という意味。当然、一つの仕事では生活できないから、従来は否定してきた副業も歓迎となる。結果、ダブルワーク合計で長時間労働になっても責任は曖昧に。さらに、「新しい働き方」では、個人事業主契約が増え使用者責任が放棄される。
 北海道のある会社は従業員7128人中、正社員はたった32人。業務委託契約などで労働法の適用を逃れているのだ(『月刊連合』2017年5月号より)。首相が「働き方改革」を「成長戦略」と喧伝する理由は明白だ。(山村清二)

▼「平昌オリンピックで南北が合同で入場したり、合同チームをつくったりするのはうれしい。でも日本ではこれをよしとする報道は少なく、水を差すような報道ばかり。南北関係が改善することは日本にとってもよいことなのに」
 1月27日(土)、東京・町田市で行なわれた「第7回町田地域日朝友好親善の集い」で西東京朝鮮第二幼初中級学校の李政愛校長はこう話した。安倍首相の「北朝鮮脅威論」が功を奏したのだろう。
 実は、町田市は小中学校にJアラートによる避難訓練の指示を出しているが、市内にある朝鮮学校にはきていない。訓練にも反対だが、これでは日本の子どもに朝鮮への憎しみだけを植え付ける上に、朝鮮の子どもは守らなくてもよいということにならないか。
 この日の浅井基文さんの講演でも、脅威論を煽って改憲につなげたい安倍首相のおかしさが語られた。「朝鮮問題は日本の問題」であることを再確認した日だった。ちなみに、おいしいお酒と料理もいただきました~。(吉田亮子)

▼"壊憲実現"の今年は『アンネの童話』(文春文庫)で明けた。かつて読んだ『日記』のほかに『童話』があり、大好きな酒井駒子さんの挿絵入りと知ってすぐ購入。
 最近、アンネを迫害したナチス高官の「国民を戦争に巻き込むのは簡単。外国から攻撃されていると言えばいい」という言葉が話題になっている。トランプ・安倍の北朝鮮強硬策が蘇らせたのだ。
 麻生副首相の「ワイマール憲法がいつの間にかナチス憲法に変わっていた。あの手口を学んだらどうか」という発言が数年前、問題になった。昨年夏にもヒトラーの動機は正しかった、と受け取られる発言を撤回した。ナチスの手際を真似したくて仕方ないらしい。
 安倍首相は年頭会見で「安全保障環境は戦後最も厳しい。国民を守るため必要な防衛力の強化に取り組む」「新しい時代への希望を生み出すような憲法のあるべき姿を提示する」と強調した。『童話』の中でアンネは「平和になればかならず争いの種をさがすんですよ」と書いている。(神原由美)