週刊金曜日 編集後記

1174号

▼国政私物化疑惑に蓋をし、まともな調査・説明・答弁をせず、恥知らずの忖度官僚や妻を逃げ隠れさせるなど国民を愚弄する「働き方」をしている男が事もあろうに「働き方改革」を説いている。今回、裁量労働制をめぐる国会答弁を撤回したが、この男は以前から、自分に都合の悪いデータや分析は隠し、都合のよいものだけを提示し私たちを騙そうとしてきた。改憲も同じ論法でやるのだろう。
 本号では2000万人超の非正規労働者の「働き方」に関わる「無期雇用転換権」をテーマに特集を組んだ。今春から毎年400万人が有期から無期契約の労働者になる権利を行使できる。しかし、すでに脱法的な雇い止めが横行しているのは、紹介されている事例のとおりだ。最高権力者から経営者まで、不正や疑惑にまみれた狡猾で愚劣な実態を見ると、必要なのは「働き方改革」ではなく「働かせ方改革」であり、政権の交代だ。あす3月3日は「モリ・カケ追及!」第2弾の抗議行動。"雇い止め"が必要なのは欺瞞に満ちた安倍政権の方である。(片岡伸行)

▼沖縄県名護市の新市長、渡具知武豊氏が、辺野古への普天間代替基地受け入れを表明する方向だと報じられている。わかりきっていた話である。渡具知氏側の選挙は、非常に巧みだった。争点ずらしに候補者隠しでメディア対策。政府が人と金について全面的に支援。18歳以上の若者票対策ではSNSだけでなく高校生にも声がけ。辺野古新基地建設反対を掲げる公明党沖縄県本部と選挙協力をするために巧妙な屁理屈的論理を構築。期日前投票のてこ入れ。やれることはすべてやるという勢いだった。選挙告示日2、3週間前には趨勢が決まっていたとも言える。
 一方、敗れた稲嶺進氏側について2月6日付『琉球新報』記者座談会で「慢心」という発言が出るなど、選挙運動の甘さが指摘されていた。残念ながら選挙は、よい政策+善意=勝利ではない。この点、海外に目を向けると3月4日にイタリアで総選挙がある。政治をシビアにとらえる新興政治勢力「五つ星運動」の動向とその意味に注目している。(平井康嗣)

▼先月、米国のビリー・グラハム師が99歳で亡くなりました。戦後米国エヴァンジェリカル(福音主義)の世界的な伝道者として、各国で球場等を会場とする大量動員の集会を「クルセード」(十字軍)として開催しました。テレビ等を利用した新しい宣教の草分けであり、歴代米大統領との親交も深く、大統領就任式の常連でした。
 昨年のトランプ大統領就任式には、後継者の息子フランクリン・グラハム師が聖書を朗読しました。彼は、トランプ大統領の後援者で、イスラム教嫌いでイスラム教徒の移民排斥を公言し、昨年のイスラム教徒入国禁止措置に繋がりました。「サマリア人の財布」という慈善団体を主宰し、中東でイスラム教徒を支援しています。その理由は、傷ついたイスラム教徒を支援してそこに留めて米国に入国させないためなのです。
 今年、英国のキリスト教団体に招待されていますが、彼の言動が英国のヘイトスピーチ規制法に違反するとして、入国禁止の署名活動が広がっています。(樋口惠)

▼普段はアクセスしないツイッターを通勤途中にたまたま眺めていたら、小さな駅前書店が明日で閉店することを伝えていた。
 出版社の販促担当としてその店を訪れていたのは遥か昔のこと。20坪の店内に実用書や文庫はもちろん、文芸から人文書まで売れゆき良好書がバランス良く配置され、店頭入口には雑誌がうず高く積まれた活気のある店だった。そしてどんな時間帯に訪問しても、駆け出し新人に対し接客をしながら笑顔で接してくれることが何よりも嬉しかった。最後に伺ってから長い年月が経っている。ただ常に頭の片隅にある書店であった。感謝を伝え、棚の姿を目に焼き付けるため自然と足が向いていた。
 30年ぶりの代々木上原駅は大きく変貌していたが、「幸福書房」は駅前にあった。店長が上梓した新刊を手に取りレジに並ぶ。以前、版元営業としてお世話になったことを手短に伝え、お礼を言って店をあとにする。感動的な再会は無い、それでも気持ちは伝わったと思った。(町田明穂)