週刊金曜日 編集後記

1226号

▼実は私は奨学金利用者だ。2008年、46歳で大学院に入学した。修士2年の時、105万6000円を日本学生支援機構から借りた。バイトを一切辞め、食事と風呂、睡眠の時間以外は修士論文執筆にあてた。おかげで修士は無事修了、7年かけて博士学位も取得した。博士課程は学費の半額免除と大学が支給する研究支援金で乗り切った。それでも奨学金の返済は24年9月まで続く。完済し終えるのは62歳だ。
 私の場合は無利子の1種だったので、返済金額も月8000円だから、それほど負担ではない。しかし、これがもし有利子の2種だったら。また、借りたのが1年間だけだったので105万円ちょっとで済んだが、学部4年、さらに院に進んで修士と博士で5年間奨学金を利用した場合、途方もない額になる。本来学びたくてもお金がない人を支援する奨学金は全給付型にすべきだ。自らの体験に基づく切実な思いだ。(文聖姫)

▼今週号から新連載「田んぼの記」が始まります。カレンダーのような感じで月1回の掲載予定です。月の区切りは、稲の生育と季節感を連動させたく、あえて明治6年から使われている現在の太陽暦(新暦/西洋暦)ではなく、それ以前に使われていた太陰太陽暦(旧暦)を使用します。
 旧暦では、和風月名と呼ばれる月の和風の呼び名を使用していました。和風月名は旧暦の季節や行事に合わせたもので、現在の暦で使用されることもありますが、現在の季節感とは1~2カ月ほどのずれがあります。旧暦は月の朔望(月の満ち欠け)の周期をひと月の単位とするので、必ず朔日(一日)は新月となります。
 古くから受け継がれてきた、農村の年長者の知恵を耕作技術だけでなく、その精神や考え方を記録し残したい。「グローバル化」に限界がきた時代だからこそ、その声は深く、豊かだ。(本田政昭)

▼〈ゆく雲の遠きはひかり卒業す 古賀まり子〉──春は別れと出逢いの季節ですね。石坂啓さんが編集委員を降りられます。私は2005年3月の就任時から担当させていただきましたが、かなり前から「いい人がいればいつでも交代しますよ」と話していました。「ドンドン交代論者」なのです。
 今号の「初めて老いった!?」にあるように定期購読者に「老いった!?」直筆原稿と原画をプレゼントします(応募者多数の場合は抽選)。応募締切は4月19日必着。ご希望の方は本誌をお届けしているご住所と購読者名を明記し、はがきは原画プレゼント係宛、電子メールはMail・henshubu@kinyobi.co.jp(「原画プレゼント応募」と見出しに明記)までご連絡ください。
 4月19日までに定期購読を始めた方もプレゼントに応募できます。この機会にぜひ定期購読をはじめ、弊誌と連帯してください。
 なお、石坂さんの新連載開始は大型連休明けの予定です。少しお待ちくださいね。(伊田浩之)

▼先日代々木公園で行なわれた「3・21さようなら原発全国集会」に本誌の販売に行った。販売していると多くの読者から直接叱咤激励をいただける貴重な機会なのだが、集会は年々参加者が減っているのが目に見えてわかる。たった8年の歳月があの日の記憶を風化させていく。他人事としてしか捉えられなければ、また同じ過ちをくりかえすだろう。
 地元でやっている読者会に中学校の教師をやっていたOさんがみえて「昔は学校の宿題で家族に戦争の話を聞いてきなさい、と言うと父母から東京大空襲の話などが聞けたのだが、時代が下ると父母が祖父母になって、最近にいたっては戦争体験者が家族にいないのが普通。家族に聞く戦争体験という宿題ができなくなった」という話をしてくれた。開戦からすでに82年の歳月が経つ。かつての過ちをなぞるかのような、ここ数年の情勢には背筋が凍る思いがする。起きてしまってからでは取り返しがつかないのに。(原田成人)