週刊金曜日 編集後記

1272号

▼本号特集の「障害者の『自立生活』」における表記について説明させていただきます。「障害」の「害」について、従来、「障害」の原因は個人にある、との考え方が主流とされていましたが、弊誌では、個人が社会に「害」をもたらすわけではないとの立場から、そうした意味を避けるために、漢字の「害」ではなく、開いて(平仮名にして)「がい」と表記するようにしておりました。
 しかし、今回の特集をすすめる過程で、〈現在は、「障害」は社会環境が作り出しているものであり、「害」は個人の側にではなく、社会の側にある、とする考え方が基本となっている。ゆえに、「がい」と開く必要はないのではないか〉とのご指摘が複数の筆者の方からありました。
「害」が障害者個人の側にあるとする従来の考え方を「医学モデル」、社会の側にあるとする現在の考え方を「社会モデル」と呼び、こうした考え方の転換は、日本では、2011年8月(公布・施行)の障害者基本法改正を契機になされ始めたとのことです。
 弊誌の勉強不足を深く反省するとともに、こうしたご指摘を踏まえて、遅まきながら、従来の表記の方針を改め、今後、「障害」の「害」を漢字表記とすることにいたします。(山村清二)

▼ナイキがプロテニスプレーヤー大坂なおみ選手を起用し、新商品のプロモーションをしている。
「今の私は、大好きなもの全てに思いを巡らせ、全力で努力しています。未来の私も、ジブンらしく同じように出来てたらいいなと思っています」。ツイッターの#は「ジブンらしくいこう」だ。
 本誌1月10日号で思想家の内田樹氏が、現代の日本社会は、「自分らしさ」という「自己同一性」を決めたら、そこから一歩も出さずにその「キャラ」を忠実に演じさせる圧力があり、それが「成熟」を阻んでいると説いた。
「成熟」とは日々変化して複雑化していくことだと内田氏は言う。現在と未来の自分が同じでなくてもいいだろう。ときには嫌いなものに目を向けることも必要だろうし、ときには力を抜いてサボることも必要だろう。固定化された「大坂なおみ像」からの脱却、それが現在の彼女の不調脱出のヒントになるのではないだろうか。
 4月から本誌で内田樹氏の新連載が開始される。(尹史承)

▼2月の中頃から急に声が出なくなった。最初に行った病院では、風邪と診断された。薬を飲んで経過を見ることにした。ところが2週間ほど経っても良くならない。咳も出ないし、喉も痛くない。ましてや熱もない。「本当に風邪か?」と思い、都内の耳鼻咽喉科で診てもらったら、声帯にポリープができていた。いまは薬を処方してもらい、少しずつ声が出るようになってきた。
 そんな折、2月29日、埼玉県の読者の会・浦和が主催する講演会に出かけた。拙著『麦酒とテポドン』(平凡社新書)が韓国で翻訳出版されたのを機に、昨年11月ソウルで講演会を開いた。同年11月22日号本誌のコラム「ヒラ社長が行く」で、そのことが紹介された。コラムは、講演に呼ばれたら「どこでも行きます」との私の発言で締めくくられていた。その後、読者の会・浦和が声をかけてくださった。当日は声が出ずに難儀をしたが、20人ほどが座れるこぢんまりしたカフェで、みなさん熱心に聞いてくださった。ありがとうございます。(文聖姫)

▼中国と日本を行き来して33年のネイチャーフォトグラファー、青山潤三さんから、新型コロナの影響で中国から出られなくなると思い帰国したが、今度は戻るメドがたたないと手紙をもらった。
 2月3日に香港経由で成田に着いた青山さんが驚いたのは入国審査。中国側ではいつも以上に書類の記入があったが、日本ではどこに行ったかの質問も荷物検査もなく、ウイルス検査はしなくていいのかと聞くと「心配なら自分で保健所に行ってください」。そこで保健所と病院へ行ったが、「一定以上の熱がある」「湖北省の人と接触があったか、または行った」人以外は検査できないとの答え。「中国の大都市に滞在していれば多くの湖北省の人と何らかの接触はあるのが当然」と青山さんは呆れる。
 結局、潜伏期間と言われる14日間を自己規制して過ごし、街に出ると風邪のような症状の人がいるわいるわ。中国でそんな人は見かけなかったそうで、「日本のほうがよっぽど感染が心配」と青山さんは言っている。(吉田亮子)