週刊金曜日 編集後記

1277号

▼安倍首相は、4月12日、歌手で俳優の星野源の「うちで踊ろう」動画を利用し、ツイッターに自宅で優雅にくつろぐ様子をあげた。そして「友達と会えない。飲み会もできない」と書き出し、その状況に置かれている国民を慮った。しかし、国のトップが真っ先に思いを寄せるべきは、「食べられない。寝る場所がない。明日生きられない」人たちであろう。星野源の仕事は、歌をうたい、演じることだが、総理大臣のそれは、政策によって日本に住むすべての人が安心してくつろげる環境を整えることである。お金や住居、医療にも困らない人間が、豪邸で頭を垂れていても反感を買うだけだ。
 補償なき自粛・休業要請によって多くの人たちが職を失い、収入を減らした。住む場所すら奪われたひともいる。この過酷な状況下で、呑気に「友達と会えない。飲み会もできない」と駄々をこねているのは、空気の読めない妻・昭恵氏ぐらいではないのか。
 先の会見で「私が責任を取ればいいというものではありません」と薄ら笑いを浮かべていたが、安倍首相の辞任こそが、この国にとっての最大のコロナ対策のような気がしてならない。(尹史承)

▼これは自然界からの復讐のウイルスなのだろうか。近年の気候変動で地球が瀬戸際の状況にあることも含め、人類の存在そのものがこの地球という星に問われているような気さえする。
 東京で「緊急事態宣言」がついに発令された。新型コロナウイルスの感染拡大による疲労感、自責感、無力感といった漠然とした不安感が世の中に蔓延している。この現実に対応するために不眠不休で働いている医療現場や物流に関わる多くの無名の人々がいる。国や自治体をはじめ、様々な現場で知恵を出し、この危機にどう向き合うのか。地球規模で歴史が動いている。新型コロナウイルスから人類は何を「学ぶ」のだろうか。
 世界中で多数の人が亡くなった。あまりに突然すぎる一人ひとりの死を想うとき、言葉をなくしてしまう。新型コロナウイルス出現以前に比べて「死」はこの国で暮らす一人ひとりにも「他人事ではない」より身近なものとなった。
「シリーズ・死を忘るるなかれ」第2回目は上野千鶴子さんに登場いただいた。あらためて「死を想う」ことは、今を生ききることなのだと再確認する。(本田政昭)

▼世間は明けても暮れてもコロナ、コロナ、コロナ......と新型コロナウイルスのことばかり。読者のみなさんも、国の対応のまずさとあいまって、さぞかしげんなりしていることだろう。
 もちろん私もげんなりしている。緊急事態宣言発令中の今、遠出などはもってのほか。だいたい私は本欄でも「○○山に登った」とか「××に行ってみた」みたいな話を書くことが多いので、今は取り上げるネタがなくて困るのだ。
 じゃあ、ってんで何か本を紹介しようかと思っても、大型書店の多くは臨時休業に入り、図書館も軒並み休館中。チクショー、通勤電車が動いてるんだから、せめて図書館くらい開いてないものか。読みたい本を自由に手に取って選べるありがたみを、今さらながらに感じている。
 それで週末、仕方がないので近所を散歩してみると......。いつもより空気がうまい! 経済活動が抑制されたせいだろうか。そういえば、持病の花粉症もこのごろ収まっている。大気汚染が進むと花粉症も悪化するそうだから、これはコロナ禍の思わぬ「副産物」といえそうだ。(斉藤円華)

▼ある米国ドラマで、日本人(という設定)がほぼ全員マスクをかけていて、その極端な描写に苦笑したことがあるが、それくらいマスク好きな国民性(?)と世界に認識されている日本。それなのに、これほどのマスク不足でも暴動が起きるわけでもなく、なければつくろうとする。その温順さにも驚くが、作り方の動画数の多さにも驚く。ガーゼや綿などの布類から、換気扇用のフィルターやコーヒーフィルターまで素材はさまざまで、効果のほどは別として、その創意工夫ぶりには感心してしまう。
 米国疾病予防管理センター(CDC)によれば、布マスクについての注意点は、(1)顔の側面にぴったりフィットする、(2)紐などできちんと固定する、(3)生地に複数の層を設ける、(4)問題なく呼吸できる、(5)損傷したり形状を変えたりせず洗濯し、機械で乾燥させることができる、の5点だ。「アベノマスク」がこれをクリアしているかは不明。CDCのサイトには布マスクの作り方も載っているので関心のある方はご覧ください。URL・https://www.cdc.gov/coronavirus/2019-ncov/prevent-getting-sick/diy-cloth-face-coverings.html(宮本有紀)