週刊金曜日 編集後記

1278号

▼安倍晋三首相は4月16日、緊急事態宣言を、それまでの7都府県(東京、千葉、埼玉、神奈川、大阪、兵庫、福岡)から全都道府県に拡大しました。歓迎する知事がいる一方で、「朝令暮改という言葉が浮かぶ」と批判する知事がいるなど、突然の拡大には唐突感がぬぐえません。
 生活支援のための現金支給について政府は、「30万円」を閣議決定したものの、対象がかなり限られるなど世論の評判があまりにも悪く、「一律10万円」への転換を安倍首相は受け入れざるをえませんでした。本来なら内閣総辞職に値する、この失態をごまかすために、緊急事態宣言を全国に拡大して危機感をあおり、政権批判をそらしているとの見立てが出ています。説得力があります。
 コロナ対策を改憲論議の追い風にしようとする動きにいたっては論外としかいいようがありません。
 今回の特集では、森達也さんに都心を歩いてもらいたいと当初考えていましたが、大事を取って、いまも行動している範囲で取材していただきました。都内の光景は、弊誌の依頼以前から撮影を続けている初沢亜利さんにお願いしました。(伊田浩之)

▼ここにきて、定期購読を申し込んでいただいた方から、書店が閉店した、図書館が休館したからという理由が目につくようになった。読者が増えるのはありがたいが、手放しでは喜べない。ただでさえ書店数は減少しているのに、閉店が相次ぎ、長期低落傾向が続いていた出版業界に追い打ちをかけている。ここ本の街神保町もほとんどの書店が閉店している。このままでは出版業界も緊急事態だ。
 地元のスポーツクラブも休業要請をうけてとうとう休館した。先月はトレーニングスペースと風呂は使用できた。4月1日からスタジオも再開するはずだった。それなのに、残念ながら休館を余儀なくされた。業界の状況はどうなのか、都内在住のいとこがパーソナルトレーナーなのできいてみた。彼はスポーツクラブの業務委託でトレーナーをしている。通常は15人から20人の会員を担当しているが、休館したため仕事がなくなった。感染のおそれがあるので、地方の実家に帰省もできない。やむなく数人は自宅を訪問してトレーニングしているが、当然収入は激減している。彼のようなフリーランスや、飲食店などの自営業者にとっては死活問題である。休業補償は待ったなしだ。(原口広矢)

▼徘徊団5回目、お台場の夜は「冷え込む」との予報なので、特に下半身を重点に着込んだ。アンダータイツをはいて、その上にジャージ、さらにスキー用のオーバーパンツを装着。さあ、どっからでも来やがれの気分だ。
 背中のザックには、昨日買い求めた東京都の区分地図帳(これがいま書店にほとんどない! あるのはガイドブックばかり)、それに雨合羽、タオル、ペットボトル、デジカメ、レコーダーなどが入っている。抜かりはない。
 勇んで台場駅を降りた時、そこにたたずむ徘徊団員を見て私は拍子抜けした。ふたりとも手ぶら、手袋もしていない。およそ同じ目的で集まった3人には見えない。案の定、歩いているうちに下半身がポカポカしてきた。雨がやんでからは......暑い。
 小さい頃から少し心配性だったかもしれない。遠足、合宿、スキー、山行と、どれをとっても友人たちより荷物が多いのだ。予備として、もし雨が降ったら、ゲレンデや登山道で骨折したら古ストッキングが役に立つなど、いろいろ考えてしまう。
 しかしである、「誰か電池持ってない?」「ありますよ」。これが言いたいのよ。(土井伸一郎)

▼58歳にして初めて選挙に参加した。4月15日に行なわれた韓国総選挙である。私は在日韓国人2世だから、日本の参政権はない。「朝鮮籍」だったから、韓国の選挙に参加したこともなかった。北朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国)の代議員選挙には参加できるが、在外投票などは行なわれていないので、選挙の時期に現地にいなければならない。ということで、これまで私は選挙というものに参加したことがなかった。だが、2018年、「朝鮮籍」から韓国籍に変更したことで、韓国の参政権を得た。とはいっても、国会議員選挙と大統領選挙だけ。手続きは簡単だ。事前にインターネットで申請し、在外投票期日内に指定された投票所で投票すればいい。
 選挙では与党(共に民主党と比例代表政党・共に市民党)が圧勝した。獲得した議席は183(定数300)で61%を占める。新型コロナウイルスへの対応が評価されたことが大きかったようだ。本誌発行人兼社長の植村隆による現地報告を今号に掲載した(26~27ページ参照)。総選挙は2年後の大統領選挙に影響を与えるといわれる。与党圧勝で大統領選も与党が有利になるのだろうか。今後を注視していきたい。(文聖姫)