1292号
2020年08月21日
▼お盆を過ぎても灼熱の毎日は続いている。今年は梅雨明けが遅かったので甘く考えていたが、やはり東京の真夏の暑さは過酷だ。私自身、過去に熱中症で救急搬送された経験からすると命の危険を感じるときもある。
本来であればこの時期、オリンピックの競技日程を終え25日からのパラリンピック開催に向けてのつなぎ期間となるはずだった。大会を振り返り「感動をありがとう」と連呼しているだけならいつものことだと捨て置こう。ただ「この時期の天候は晴れる日が多く、且つ温暖であるため、アスリートが最高の状態でパフォーマンスを発揮できる理想的な気候」とうたって招致したなかで、猛暑による選手や観客の事故はあってはならない。スポンサーに名を連ねる大手メディアは、いま熱中症への警戒を促しながら、命取りになりかねないイベントの後押しをしている。しかしことが起こった場合、どう報道するつもりだったのか。
嘘と誤魔化しを重ねて招致し、結果、コロナ禍で延期となった東京五輪。そもそも無理筋の案件だったのだ。コロナの一日でも早い終息を祈りながら、開催中止の判断も願っている。(町田明穂)
▼7月17・24日合併号「25人が選ぶ100冊」で執筆の平川克美氏が営む「隣町珈琲」は、地域の住民が気軽に憩える喫茶店としてスタートし、講演会、勉強会、古典芸能のイベントやこども食堂、書店営業、地域文芸誌【mal"(マル)】創刊など、地域文化の発信拠点として、東京・荏原中延という町のシンボル的存在になっている。しかし、急遽移転を余儀なくされ、事業継続の危機に。そこであえて(投資&リターンという考え方の)クラウドファンディングを使わずに「喜捨」の窓口を作った。〈贈与に対する返礼は、面白い拠点を作ることでお返しするのが本筋〉ということで、この「喜捨」の仕組みが、これから先の、成長なき社会を支える贈与経済のきっかけになったら嬉しい、とも。
先日、移転前の店を訪れた。たまたま居合わせた女性が本誌の定期購読者で、椎名誠さんのファンとのこと。感謝。支援をいただける方は、名前記入の上、左記まで。
目黒信用金庫荏原支店 エバラシテン 普通預金 口座番号:0162347 口座名称:トナリマチコーヒーノカイ ヒラカワカツミ(本田政昭)
▼産業遺産情報センターを見学した際、センター長の加藤康子氏や主任ガイドの中村陽一氏の意見を聞きながら、私は「南京事件否定論」と「軍艦島では朝鮮人差別や虐待はなかった」論には共通性があると感じました。
南京事件否定論の多くは、被害国である中華民国(当時)側の認識や被害者証言について問題点を指摘し、大規模な残虐事件の存在を否定しますが、いっぽうで事件の存在を示す日本側の史料や証言については「知らんぷり」する傾向があります(本誌2019年12月6日号掲載記事「南京事件否定派が10年以上反論しない日本軍内部史料」などをご参照ください)。
同じように加藤氏や中村氏も、韓国映画『軍艦島』の内容や、韓国人証言者の内容を強く批判していました。しかし同センターの展示は、日本での先行研究や、先行調査で採取された(日本人を含む)証言、そして日本での司法判決で認定された事実については、ほぼ「知らんぷり」に等しい状態です。三井三池炭鉱など、端島(軍艦島)以外の炭鉱での過酷な実態もほぼ無視しています。それはいったいなぜでしょうか。(植松青児)
▼長崎の平和祈念式典は毎年録画して何度か見る。市長が述べる平和宣言と、被爆者による平和への誓いに心打たれるからだ。
長崎の平和宣言は、被爆者や学識経験者、平和活動関係者などの市民らと市長による起草委員会方式でつくられる。「さらん日記」の作者もかつて起草委員を務め、熱心に議論をしていた。平和を求める市民の思いが込められているからこそ、お定まりの言葉ではなく血の通ったものになるのだろう。今年は〈核兵器禁止条約はまだ早すぎるという声があるが、そうではない。核軍縮が遅すぎるのだ〉と言い切り、日本政府に条約批准を求めたすばらしい内容だった。
だが一方で残念なのは、2007年当時、平和行政を統括する原爆被爆対策部長から性暴力を受けたと記者が訴えた件について長崎市が誠実な対応をしていないことだ。市の職員が記者側に非があるような発言をして苦しめ、日弁連が長崎市に謝罪と再発防止策を求める勧告をしても市は拒否した。昨年、記者は謝罪などを求め市を提訴している。長崎市が本当に平和を希求するなら、非を認め再発防止に努めるべきだ。性暴力野放しの「平和」などない。(宮本有紀)