週刊金曜日 編集後記

1304号

▼「私たちはいまだ、あの高いガラスの天井を打ち砕くことができていません。しかし、きっと誰かが、いつの日か、私たちが思うよりも早くかなえてくれることでしょう」。ガラスの天井とは、昇進を阻む目に見えない制限を比喩した言葉だ。女性が要職に就けない状態を指すことが多い。4年前、米大統領選に敗れたヒラリー・クリントン氏の演説で印象に残っていたのが冒頭の言葉だ。米国で女性大統領の誕生は難しいのか、と落胆した。が、ヒラリーが語った「いつの日か」は意外と早く訪れた。米大統領選で民主党のジョー・バイデン氏が勝利したことで、女性初の副大統領が誕生することになったからだ。カマラ・ハリス氏。彼女は勝利スピーチで、こう述べた。「私は最初の女性副大統領かもしれませんが、最後ではありません。今夜、この瞬間を見ているすべての小さな女の子たちは、ここが可能性に満ちた国であることを知ったからです」。ハリス氏は「高いガラスの天井」を打ち砕いた。さらに高い天井も打ち砕けるか、見物だ。(文聖姫)

▼映画『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』が人気だ。興行収入は公開からわずか24日間で歴代5位となる204億円に達し、観客動員数は約1537万人を記録した。
 ヒットの要因はさまざまだが、コロナ禍の世相にこの作品が見事に合致した点が大きいだろう。
 物語は、主人公の家族が鬼に皆殺しにされる凄惨な場面から始まる。それはなんの前触れもなく理不尽極まりないものであった。そして妹は鬼と化してしまう。
 しかし主人公は負の感情にとらわれることなく、妹を救うために仲間と手を取り合い、前むきに生きていく。また、敵であるさまざまな鬼(元々は人間)に対しても、その境遇を理解し、思いやりの心を持って接する。その純真さが新型コロナウイルスとの闘いで疲弊した私たちの心に突き刺さる。
 コロナ禍、その対極をいく安倍晋三氏とドナルド・トランプ氏が求心力を失い、去っていったのは偶然ではあるまい。いま求められているものは「分断」や「排外」ではない。(尹史承)

▼以前、大瀧詠一と細野晴臣が、若い頃に好きだった曲として、ロックでは「Helpless」、歌謡曲では「渚のうわさ」(弘田三枝子)、「くれないホテル」(西田佐知子)をあげていた。1曲目は、ニール・ヤング、後の2曲は筒美京平の作曲。ニールも筒美も、勿論、はっぴいえんども好きだった私としてはまさに「我が意を得たり」。後に同じ元はっぴいえんどの松本隆が、筒美とのコンビで数々の傑作を生んだのも偶然ではないだろう。
 ロックもジャズもクラシックも、ジャンルを問わず「雑食」の私が、歌謡曲で一番ハマったのが筒美。何度聞いても飽きがこないサウンドが、ヒット狙いの歌謡曲にありがちなベタな曲調とは違い、粋で洗練されているのは、ジャズの素養や、多大な影響を受けたモータウン音楽の下地のゆえか。
 二十数年前に2カ月分の小遣いをはたいて入手した「作曲家活動30周年記念」8枚組アルバム『筒美京平:HITSTORY』を1枚ずつ聴きながら、亡くなるまで歌謡曲の世界を豊かにしてくれたこの作曲家に感謝している。(山村清二)

▼10月13日午前8時30分、警察署に出向いた。ちょっと早めに着いたので、担当部署は閉まっていた。病院の待合室のようなソファに座って待つ。寒々としていた。
 事件が発生したのは9月25日の深夜だった。翌日目覚めるとスマホがない。壊れたので機種変更して購入したばかりの新品だ。自宅電話から電話してみる。経験上、家中の意外な場所で発見されるものだ。されど反応なし。店に置き忘れたか、どこかで落としたか。さて困った、どうしよう。GPSで位置検索したらなんと自宅から徒歩20分以上の場所だった。徘徊団じゃあるまいし、夜更けにそんな遠くまで歩けない。取り急ぎ、警察に届けることにした。
 警察によると、毎日膨大な数の携帯電話が落とし物で届く。持ち主を特定するには電話会社に確認をとるため手間と時間がかかるそうだ。実際、当方のスマホは10月6日に受理され、10月13日に受け取った。「何度も落とし物をした、落としてないのは命だけ」は業務部長の迷言だが(命は大切に)、携帯電話の紛失はこれで二度目なので、気をつけねば。(原口広矢)