1305号
2020年11月20日
▼本号掲載のフリーライター・越膳綾子さんによるALS当事者のルポでは、当事者の方たちに記事原稿の確認をとることに、通常よりも時間をかけた。内容的な確認はもちろんだが、コミュニケーションをとるのに一定の時間がかかるからだ。考えてみれば当然のことなのに、日々の時間に追われるなかでその配慮に思い至らず、越膳さんから打診を受けて初めて気づかされた自分が恥ずかしい。
京都の事件で逮捕された医者がそうであったように、優生保護法が廃止されても、「〇〇は生産性がない」などといった表現が跳梁跋扈するいまの日本社会は、優生思想的な考え方に深く蝕まれている。社会の閉塞感のせいなのか、「自助」を前面に掲げる菅義偉政権に代表される、自民党の自己責任主義のせいか、「生産性」「効率性」を求める資本主義自体がもたらすものなのか。そのすべてか。
はっきりしているのは、そんな社会は絶対に変えなければならないし、そのためにはまず、自分自身の認識を根本から変えることからしか始まらないということだ。改めてそう思う。(山村清二)
▼ホントにこういう学校、あったのかな。15日まで東京で行なわれていた文学座の公演『五十四の瞳』(作:鄭義信、演出:松本祐子)は戦後すぐの時代、採石業で成り立つ瀬戸内海のある島の唯一の学校、朝鮮学校の職員室が舞台。島にいた日本人も学校に頼んで入学させてもらい、仲よくいっしょに勉強していたという設定である。
そんなある日、朝鮮学校閉鎖の通達が出て、神戸などでは抗議デモが起きる。そこで、ともに学んだ朝鮮と日本の3人の少年が島を出て参加する。心は朝鮮にある、といつか帰ることを信じて学校を作った親世代と歴史に翻弄される少年たち。朝鮮戦争、北朝鮮への帰国事業等々、20年の朝鮮人の歩みが学校を通して語られていく。
劇中、先生が「あたしたちには未来がなくても、あの子らにはある」「54の瞳が待っている」と授業に向かう場面がある。今も在日コミュニティの中心には朝鮮学校があり、子どもが希望であることに変わりはないだろう。内容は深刻だが、そこは『焼肉ドラゴン』の鄭さんなので、笑いも満載!(吉田亮子)
▼テレビニュースはこのところ米国大統領選一色だったが、その話題が盛り上がる前から続いている日本学術会議任命拒否問題もまだまだスッキリしない。そんな中、「総合的しました♪俯瞰的しました」。本誌の読者なら、にやりとしてしまうキャッチコピーの第30回「財津昌樹と山口マオのカレンダーを使って言いたいことを言ってしまう展」が開催されている。1992年から社会問題をテーマに制作しているカレンダーも今作で区切りの30作め。3月に取り上げている福島原発事故の前の前から警鐘を鳴らし続けていることに頭が下がります。本誌での連載が終了して物足りなかった向きは来年もトイレでお2人のメッセージを堪能していただけます。
展示会は24日(火)まで12時~19時、東京・こくみん共済coopホールスペース・ゼロギャラリー(新宿駅)で開催中。展示会、カレンダーの問い合わせは(株)デザインスタジオドアーズ(TEL・03・5358・6677)まで。定期購読者の方は先週号に同封のチラシをご覧下さい。(志水邦江)
▼野田聖子・自民党幹事長代行が11月9日放送のTBSラジオ「荻上チキ・Session」で「菅さんそのものはフェミニストだと思います」と発言したのには驚いた。
それはどういう意味かと訊かれると、菅義偉氏が横浜の市議会議員のときに全国に先駆けて出産一時金をつくったと「嬉しそうに語った」ことを挙げていた。それは出生率上昇をねらった政策で、ジェンダー平等推進施策とは言えない。荻上氏は「フェミニストというと第一義的には男女差別を是正する、女性差別に対してノーを言う人ということが大前提としてある」と指摘したが、そのまま議員候補者の男女比率の話に移行してしまったので、もやもやは残る。
「フェミニスト」なら男女平等と多様性を志向するはず。多様な意見を尊重し批判に耳を傾け、女性閣僚を5割以上にし、女性差別撤廃条約の選択議定書を批准し、選択的夫婦別姓を実現させ、女性は嘘をつくなどという女性差別発言を述べた議員を候補者にしないこと等を菅氏が実行したなら、私も野田氏に同意する。(宮本有紀)