週刊金曜日 編集後記

1308号

▼国立歴史民俗博物館の企画展、ジェンダーの視点で古代から現代までの歴史を展示する「性差(ジェンダー)の日本史」は先週終了したが、最終週は連日予約で埋まる人気ぶり。圧巻の資料を観て、評判になった理由がわかった。
 展示をたどれば、有名な「卑弥呼」だけでなく女性首長が多く存在し男女共に能力を発揮していた古代から、時代を経るごとに男女が区別され、女性が地位ある立場から追われていく様が明らかになる。女性は職を奪われ公式記録に残されなくなるが、時折、国の都合で増産のための「女性活躍」を押し付けられる。生理用品の普及も女性を休ませずに長く働かせるためだった。その上育児・家事も女性に負わせる構図は今も続く。
 だが展示の最後に流れる映像で村木厚子元厚生労働事務次官は語る。「制度ができる前の女性の能力や男女の役割は、もっと多様で豊かだった。制度で排除されてきたものを制度でまた取り込んでいくことができる」と。そして、歴史を勉強すれば絶対的なものはないことがわかる、現状は変えられる、と話す。そう、夫婦同氏の強制も天皇の男系男子継承論も古代にはない。制度とは絶対ではなく変えられるものだ。(宮本有紀)

▼コロナ禍のなか、「医療崩壊」が深刻化している。大阪では、吉村洋文大阪府知事が「医療非常事態宣言」を発表。全国初のコロナ専門病院も、看護師不足などによって危機的状況にあると訴えた。
 だが、大阪の医療崩壊を加速化させたのは、橋下徹氏以来の大阪維新の会ではないのか。住吉市民病院を「二重行政」の悪玉に仕立て閉院に、大阪府医師会看護専門学校を補助金削減で閉校に追い込むなど、コロナ禍以前から大阪の医療体制をボロボロにしてきた。
 大阪だけではない。公立病院の統廃合や独立法人化など、医療体制の破壊は全国的動向で、医療従事者を苦しめてきた。にもかかわらず、コロナ禍での激務や感染リスクに耐えている医療従事者が差別に晒され、病院経営悪化を理由に賞与が削減される理不尽さ。
「理不尽がまかり通るのは闘いがないから」と労組委員長が集会で語った千葉県・船橋二和病院の医療労働者が、12月4日、「医療を社会保障として取り戻す」と訴えて厚労省に申し入れをした。同じ日、国会は事実上閉幕し、菅義偉首相は内容のない記者会見に終始。「GoTo」は中止どころか延長案! 問答無用の理不尽が、コロナ禍で加速している。(山村清二)

▼自他ともに認める防弾少年団(BTS)のファンだ。なぜ人気なのかを分析しようと、彼らのコンサートをいくつかテレビで見たら、ハマってしまった。そんなBTSメンバーの一人、Vが愛読している『言葉の力』(シン・ドヒョン、ユン・ナル共著)は、話し上手になるための極意を解説する書だ。韓国ではベストセラー。日本でも今年4月に米津篤八訳でかんき出版より刊行され、すでに4万部を突破している。
 なぜこれほどまでに読まれているのか。おそらく、単に話し方のテクニックを教えるだけでなく、古今東西の古典と賢者の言葉を紹介し解説することで、本当の話し上手になる方法を提示しているからではないか。著者の一人、シン・ドヒョン氏は「はじめに」でこう書いた。「あなたが本当の話し上手になりたいのなら、自分を磨きながら、必要なものを地道に積み上げていかなければならない」。
 言葉を扱う仕事を長年していて、言葉の重要性は十分に認識しているつもりだ。話し言葉と書き言葉は多少異なるかもしれないが、本から学ぶことは多いはずだと、BTSファンの私は線を引きながら読んでいる。(文聖姫)

▼落語家の立川談志さんは、松元ヒロさんに「テレビに出てる芸人を俺はサラリーマン芸人と呼んでいる。テレビにクビにならないようなことしか言っていない」「ほかの人が言えないことを代わりに言ってやるやつが芸人。おまえを芸人と呼ぶ」と言ったという。
 12月6日放送『THE MANZAI』(フジテレビ系)でのお笑いコンビ・ウーマンラッシュアワーの漫才が物議を醸している。テレビではタブー視される社会問題をネタに組み込んだからだ。
「福島では原発事故でふるさとを奪われた人がたくさんいる。沖縄では基地を押し付けられて静かな空とか青い海とか、人間関係を壊された人がいっぱいいる。朝鮮学校の子どもたちは自分たちのルーツを学ぶという当たり前の教育、権利すら奪われ続けている。彼女たちは声を上げ続けているんですが、皆さんが無関心だったら彼らの声はずっと聞き取れないまま」と、早口でまくし立て、「だからその泣き声ってのは、芸人が持ってこないといけない」と説いた。
 このネタの感想を求められたビートたけし氏は、「ああいうの北千住の駅前によくいたな」と茶化したが、彼らこそが、"芸人"のかくあるべき姿であろう。(尹史承)