週刊金曜日 編集後記

1310号

▼菅政権の支持率が急落している。5人以上の会食の自粛を要請しておきながら、自身は8人での会食を実施。国会で「"全集中の呼吸"で答弁させていただく」と語ったが、日本学術会議の任命拒否問題や「桜を見る会」問題など、自身に都合の悪い質問には「答弁を控える」の一点張り。そして緊迫したコロナ禍で空気の読めない「ガースーです」発言など、急落の理由は枚挙に暇がない。彼のはき出す言葉には重みや温度がなく、薄っぺらい。無責任の極みだ。
 これは安倍前首相も同様だが、コロナ禍(非常時)に求められる理想のリーダー像とはかけ離れている。この頼りなく不誠実な政治家たちと比較し、『鬼滅の刃』に出てくるキャラクターは、実直でうそ偽りがない。そして彼らの熱い言葉は、ストレートに読者の心に突き刺さる。主人公の先輩煉獄杏寿郎は、「俺は俺の責務を全うする!! ここにいる者は誰も死なせない!!」「弱き人を助けることは強く生まれた者の責務」とし、命がけで多くの人たちを救う。今の日本にはない非常時のリーダーシップの理想型を体現している。この作品がコロナ禍でヒットする理由がよくわかる。(尹史承)

▼誰かは待っていてくれたかもしれない、恒例映画ベストファイブ。映画館で観たものに限定。4月、5月は映画館も閉館。今年は34本でした。順不同です。
『ザ・バンド かつて僕らは兄弟だった』『薬の神じゃない!』『カセットテープ・ダイアリーズ』『レ・ミゼラブル』『三島由紀夫vs東大全共闘』。
 6月初めに観た『存在のない子供たち』(レバノン・フランス)、舞台は中東のスラム街。なんと観客は俺ひとりだった! これは初めての体験。けれども、ひとりでこの映画を、大きな劇場で観るのはつらい。なんか責任がすべて俺にあるような気分になってきた。
 スコセッシ監督の傑作だと確信している『ラスト・ワルツ』から42年たつ「ザ・バンド」。もう3人が亡くなった。 ロビー・ロバートソンの言葉が痛い。
 12月に2日間にわたりテレビ放映された『逃亡者』。93年のハリソン・フォード主演映画(おもしろいです。観てください)にはかなわないが、和泉聖治監督は奮闘した。63年にアメリカのテレビドラマとして始まった「逃亡者」=暗いデビッド・ジャンセンが原点。
(土井伸一郎)

▼初めて柳刃包丁を買いました。柳刃包丁とは、刺身を作るときに使う片刃包丁の一種で、柳の葉のように幅が細く先が尖っているからこう呼ばれます。
 新型コロナ禍で年末年始の帰省をあきらめました。自宅で過ごす時間が増えそうです。魚は「さく」で買ったほうが安いので、自分で刺身を引こうと思ったのです。
 東京の浅草と上野の中間にある南北約800メートルの「かっぱ橋道具街」にも初めて出かけました。料理道具や食器など食に関連する専門店約170店が集まっています。プロ御用達の場所です。
 このご時世のためか、週末でも人出は少なく感じました。包丁の専門店を何店か訪ね、店員の親切な説明を聞きながら、8寸(刃渡り約24センチメートル)の柳刃包丁を少し背伸びして入手しました。
 早速、自宅の近所でさくを買って包丁を使ってみることに。驚きました。刃渡りが長いため、簡単に身を引き切ることができます。切り口が実になめらかなのです。
 農林水産省の生産者支援事業で、送料が無料の水産物などのお取り寄せがあります。いろいろと倹約しながら少しでも楽しく過ごしたいと願っています。(伊田浩之)

▼シリーズ「死を忘るるなかれ」第3回目は、訪問診療医の小堀鴎一郎さんに話を聞いた。著書『死を生きた人びと――訪問診療医と355人の患者』(みすず書房)には往診の際に患者が著者と語り合うなかで、それぞれの患者が最期のあり方を見いだしていく様子が、研ぎすまされた筆致で簡潔に記されている。それは「医者と患者」の対話ではなく「人と人」の対話である。そこには、死にゆく人への優しさと敬意がある。
 人が生きていく上で重要なのは「対話」なのではないか。とりとめのない日常の会話が「生きる力」になるのだ、とあらためて思う。新型コロナウイルスの影響か、以前よりも死をより身近に感じるようになった。ときには、真正面から死を考えることも必要なのかもしれない。老いは「予防」しなければならないものなのか。最期まで延命処置をすべきなのか。尊厳死(生き方、死に方を選ぶ自由)のこと。コロナ禍で自殺者が増えていること、などなど。
 東京では12月17日、822人の新型コロナ感染が確認され、1日あたりの感染者数の過去最多を更新。20日、月ごとの感染者数が初めて1万人を超えた。(本田政昭)