週刊金曜日 編集後記

1312号

▼特集内記事にも出てくる『卵子提供 美談の裏側』という米ドキュメンタリーの原題は『Eggsploitation』。「eggs」(卵子)と「exploitation」(搾取・収奪)をつなげた造語だという。2010年公開で、事例を追加して13年に再公開されたバージョンの日本語版を「代理出産を問い直す会」が制作。その上映会が明治学院大学で14年に開催されたときに観た。
 若くて健康な女性が人助けになるからと卵子提供を決め、ホルモン剤を投与され採卵を続けるうちに身体がぼろぼろになり、自分の子どもは産めなくなったり病気になって生死の境をさまよったりする実態が描かれる。卵子が不妊治療以外に他の病気の薬の開発にも使われていることなど提供者は知らされない。まさに「卵子の搾取」だ。
 問題が明らかになって米国でもさすがに規制がされるようになったが、昨年の生殖補助医療法成立で事実上非配偶者間人工授精を認めた日本では法整備が未熟で、同様のことが起きないとは限らない。搾取されるのはいつも社会的経済的弱者だ。それに治療を受ける側のリスクも高い。
 生殖補助医療推進でバラ色の未来、というわけではないことをぜひ知ってほしい。(宮本有紀)

▼お正月には欠かせないであろう料理の一つ、黒豆。実はうちの黒豆は歯ごたえがあるぐらい硬い。正確には、母がつくる黒豆が硬いのだ(今年は実家に集まらなかったので、お正月の料理をもらいに行った)。子どものころから食べているので、煮豆とはそういうものだと思っていたし、しわなくふっくらとした黒豆は食べた気がせず、市販品はあまり買わない。
 うちの黒豆がよその家とは違うらしいことに気がついたのは、もちろん大人になってからだが、聞くと母はわざわざ硬くしているとのこと。たしか火の入れ方がふっくら版とは違うようで、つくり方を聞いたのだが姉の私は忘れ、妹はしっかり受け継いで、さらに硬い黒豆をつくっている。この先もお正月に硬い黒豆が食べられると思うと、ひと安心である(笑)。
 最近、ホームレスらしき人が電車に乗っている姿を見かけることが多くなった気がする。東京もすっかり寒くなり、居場所がないのだろう。7日に緊急事態宣言が再発令され、生活困窮者への支援がさらに急務となった。誰もがおなかいっぱい食べられること。崔善愛編集委員の風速計に倣い、それが食いしん坊の私の夢である。(吉田亮子)

▼お正月放送の「逃げ恥新春SP」、最後の方で新型コロナの去年今ごろのニュース映像(本物)が出てきたの、見ましたか? そのニュースでは感染者数「15人」と伝えていました。15人ですよ、全国でね。というわけで厚生労働省のデータを調べてみると、2020年3月1日に15人が記録されています。
 それが2021年1月10日は6090人でした。1年弱で400倍超。いや、もうなんと言っていいのでしょうか。
 欧米のニュースに隠れてあまり報道されていませんが、アジアを見ると、中国だけでなくベトナムもワクチンの自国開発に成功、治験が始まったそうです。ワクチンがあればいいということではないですが、医薬品(に限らず生きていくのに必要なものすべて)を自国で開発・生産できる力というのは本当に大事だと思います。去年の今ごろ、日本はマスクもなかったんですから。未来に向けてどうすべきかのビジョンまったくなし、1年前と変わっていない日本。
 ところで「逃げ恥」は、今回もなかなかよかったです。沼田さん(古田新太)がぶつリーダーの役目論、「そのとおり!」と思いました。(渡辺妙子)

▼今回の年末年始の自宅は非常に華やかさに欠けるものとなった。装飾の自粛を迫られたからだ。
 原因はわが家にいらっしゃった猫様たち。クリスマスツリーはオーナメントの誤飲と破壊がこわくて出さずじまい。縁起物だからと飾った鏡餅の御幣はかじられ、引き倒され、てっぺんのプラスチックのミカンはおもちゃと化した。正月用生花も襲われる(特に菊の花が好きらしい)ので高い場所に飾ってみたが、猫様の室内最高到達記録を伸ばしただけだった。誰よりも高い場所に陣取った猫様は今、王者さながらリビングを睥睨している。
 クリスマスツリーをめぐる猫様との戦いは、とてもよくあることらしく、一番多い対策はツリーを囲うことのようだ。今年の年末までには対策をとって、心華やぐ部屋を取り戻したい。何かよい対策があればお知恵を拝借したいところだ。ただ、しつけるという方向性は、はなからあきらめモード。
 猫様をなんとかしようとしてはいけない。思い通りにならないことがあることを思い知るのは子育てと同じ。できることは安全のために、ひたすら危ないものを排除することくらいだ。(志水邦江)