週刊金曜日 編集後記

1325号

▼医療従事者に続き、4月12日から高齢者への新型コロナウイルスのワクチン優先接種が始まった。
 昨年9月から11月にかけて菅義偉首相は「(ワクチンは)来年前半までにすべての国民に提供できる量を確保する」と何度も強弁したが、4月12日時点で日本の接種人数は約113万人で、総人口の1%にも満たないのが現状だ。すでに半数近くが接種を済ませた英国などとは大きな隔たりがある。
 ロイター通信は、日本が新型コロナウイルスの「集団免疫」を獲得するのは、"東京五輪後"の10月頃になると報じた。にもかかわらず、菅政権は「人類がコロナに打ち勝った証」として東京五輪を強行しようとしている。開幕まで3カ月、ワクチンなしでウイルスにどう打ち勝つというのか。
 小池百合子都知事は4月12日、報道陣の取材に対し、ワクチンのない重点措置期間を「変異株と素手で戦っているようなもの」「みなさま方のご協力が欠かせない」と訴えたが、もうこの国には竹やりすらないのだろう。(尹史承)

▼北朝鮮は「新型コロナによる世界的な保健危機状況から選手たちを守るため」、東京オリンピック・パラリンピックへの不参加を決めた。3月25日にテレビ会議方式で開かれたオリンピック委員会総会で決定していたが、そのことが国際社会に伝えられたのは4月6日だ。北朝鮮政府も状況を見ながら、ギリギリまで発表を遅らせていたのかもしれない。
 北朝鮮は昨年1月、コロナ対策で国境を封鎖したが、それによって朝中の貿易額は大幅に落ち込んだ。中国の税関総署によると、2020年の中朝輸出入額は19年比80・7%減の5億3905万ドル(約590億円)だ。物不足も深刻で、在北朝鮮のロシア大使館職員がトロッコで「脱出」する姿は衝撃だった。北朝鮮の一般市民の生活が困窮していることは言わずもがなであろう。そうまでして国内に新型コロナが流入するのを防ごうとしているのに、万が一五輪に参加した選手団の中に感染者が出たら......。北朝鮮も苦渋の選択だったに違いない。(文聖姫)

▼私は、もとより勉強も教科書も格別好きというタイプではない。が、「慰安婦」問題がどう教科書に書かれているかについては、少なからず関心はある。3月31日の『産経新聞』朝刊を読み、「新しい『歴史総合』教科書の『慰安婦』に関する記述を自分の目で見てみたい」と思ったのが、先週4月9日号の「高校『歴史総合』教科書を高嶋伸欣・琉球大学名誉教授と点検する」記事の出発点である。
 3月31日に某所で「歴史総合」の教科書13点(合格12点、不合格1点)すべてを手に入れ、4月1日朝から受験生のように教科書を読み込んだ。もちろんスーパー斜め読みである。さらに無理をお願いして、高嶋さんにお会いして、「歴史総合」教科書の評価などをお聞きしたのが、4月2日の午後のこと。さすがに長年、文部省と文部科学省を相手に教科書をめぐって訴訟や折衝をされてきただけに実に、お詳しい。内閣広報官だった山田真貴子氏が育鵬社の公民教科書に登場していたことなど初めて知ったのである。(佐藤和雄)

▼4月4日、弊誌元編集長・前発行人の北村肇さんを偲ぶ会が開催された。コロナ禍中ということでオンライン配信での参加とはなったが、様々な思い出が蘇った。
 業務部社員として入社した私が心身を崩して管理職を辞した際、「リハビリのつもりで」と編集部への異動を配慮してくれたのが北村さんだった。特に記憶に残るのは2008年から足掛け2年、企画・編集を任された不定期連載の編集長インタビュー。「派遣村」に象徴される貧困問題が焦点化された時代状況下、「労働/生存運動のいま」と題して、生活困窮者支援や「一人でも入れる」労組活動にかかわる市民など全15人を取材。一人ひとりの懐にすっと入り込む能力にいつも感心させられた。新聞労連委員長やジャーナリストとしての経歴ももちろんあるが、常に弱い側に身を置く北村さんだったからこそ、と今改めて思う。
 療養中に描かれた塗り絵を原画にしたハンカチを記念に戴いた。多彩で優しい色づかいに、故人の人柄が偲ばれる。(山村清二)