週刊金曜日 編集後記

1326号

▼ビルマ(ミャンマー)で、ヤンゴン在住の記者、北角裕樹さんが再び当局に拘束された(詳報は42頁)。北角さんは、本誌の常連執筆者だ。クーデター後、特に3月からは通信制限も強まり、北角さんは「現地からの情報がますます制限される」と懸念を示していた。
 クーデター後の国軍の蛮行はさまざまな国で報じられたが、ロヒンギャやカチン族などこれまで長く弾圧・迫害を受けてきた少数民族の人からすれば、今に始まったことではない。北角さんも、「ヤンゴンは都会だからすぐに国軍の蛮行が露見するだけ」として、国軍による少数民族の弾圧をビルマ多数派が見過ごしてきたことの反省と、共闘の動きについて4月9日号(42~43頁)では報じてくれていた。北角さんの拘束をはじめ、メディアへの圧力で言論が萎縮することも危惧する。日本では一部で再び自己責任論も跋扈するが、知る権利、報道の自由が侵害されれば、行き着く先は「皆が幸せそうな顔をしながら、しっかり権力に監視されているというもっと巧妙な『現代版』の監視国家」(18頁、自治体情報政策研究所・黒田充代表)ではないか。(渡部睦美)

▼17日、東京都の元教員、根津公子さんの「09年『君が代』判決最高裁確定勝利集会」が東京・八王子で行なわれ、配信で視聴した。確定した勝訴判決についてはルポライターの永尾俊彦さんが3月5日号のアンテナで既報だが、都による「君が代・不起立」の処分はいまだ止まず、3月31日には5次訴訟が提訴された(32ページ)。
 集会冒頭で流された「たたかい」を振り返る映像では、根津さん自身が2006年の卒業式で「不起立」をしたあと、「子どもたちは小学校の時から(君が代を)歌わされてきたので、歌っている人がずいぶんいる。ホントにこうやってもっていかれちゃうんだな。胸が切り裂かれるような感じでした」と言っていた。集会でも、「都教委は『教員全体が起立斉唱すれば、会場全体が厳粛な雰囲気に包まれる。それは無形の指導だ』と言っている。要するに刷り込み。いちばんやってはいけない」と。
 当日は主催者側の予想に反して約60人が会場に足を運び、配信は18日夜の段階で500回を超えた。裁判の区切りはついたが、若い世代に引き継ぐべく弁護士らと記録をまとめる予定だという。(吉田亮子)

▼映画『生きろ 島田叡─戦中最後の沖縄県知事』を観ました。沖縄戦を生き延びた住民、軍や県の関係者、その遺族らへの取材を通じ、沖縄戦時の知事、島田叡の生涯と沖縄戦に迫った長編ドキュメンタリーです。
 監督は、『米軍が最も恐れた男 その名は、カメジロー』2部作で沖縄戦後史に切り込んだ佐古忠彦さん。ネタバレを避けるため詳しくは書きませんが、知られていない事実が多く盛り込まれています。
 公式サイトで佐古監督はこう書いています。
〈新型コロナウイルスの感染拡大という思いもよらぬ事態に見舞われた2020年、リーダーたちの決断一つで、私たちはいかようにもどこにでも連れて行かれることを改めて意識したとき、果たして、私たちは、どれだけ歴史の教訓を学んできたといえるか。76年前の出来事は決して昔話ではなく、すべて「いま」に問いかけているような気がしてならないのだ〉
 私も映画を観ながら、菅義偉政権の感染症対策がいきあたりばったりであることを想起していました。お薦めです。(伊田浩之)

▼本誌編集委員の想田和弘さんの全作品上映会『日常を「観察」する映画作家・想田和弘の仕事2007-2020』が、4月28日(水)から5月7日(金)まで、東京都内のシネマハウス大塚で開催されます。DVD化されていない『牡蠣工場』や初期の短編作品が上映されたり、監督のレクチャーもあるので私も足を運びます。
 想田映画といえば印象的な猫の出演シーンが多いことで有名で、ご本人も猫好きを公言。本誌では隔週でフォトエッセイ「猫様」を連載。今回その中から各地の猫様をピックアップしたポストカード3枚を製作しました。監督書き下ろしのエッセイ「猫様と僕」のカードと4枚セットで、近日中にホームページでご案内予定です。乞うご期待。前述のシネマハウス大塚でも販売予定です。
 さらに、猫のイラストも好評だった想田さんの連載「ヴィパッサナー瞑想体験記」が『なぜ僕は瞑想するのか ヴィパッサナー瞑想体験記』(発行:ホーム社、発売:集英社)として発売されるのを機に、今号では「その後」について書いていただいています。(志水邦江)