週刊金曜日 編集後記

1329号

▼ビルマ(ミャンマー)で拘束されていた北角裕樹さんが解放され、5月14日に帰国した。話を聞くと、「虚偽ニュース拡散」の容疑については、そもそも、そのニュースが具体的にどれを指すのか特定すらもされていないというから、そのデタラメさと強権ぶりにあらためて驚かされた(詳細は12~13頁)。北角さんによると、約4000人もの"政治犯"が捕まっているので裁判も非常に杜撰という。裁判をやる場所の確保も困難であるため、北角さんのいたインセイン刑務所では、フットサル場のような建物をパーテーションで五つに分けて、そこにそれぞれ裁判官が入り、その前に被告人が並んで裁判を受けていたそうだ。「次から次へとたくさんの被告人がきて、裁判は流れ作業。30人ほど被告人がいるような事件もあって、みなが体育座りをして待っていて一緒に裁判を受ける。まともな裁判になるわけがない」と話す。戒厳令が出ている地区では本人不在のまま軍法会議で死刑判決が出ている例などもあるようだ。日本政府は北角さん解放によって「強いパイプ」を証明したのなら、この国軍支配への強い抗議も行なうべきだ。(渡部睦美)

▼ラジオの大特集をお届けしたいと計画しています。そこで、「私の好きなラジオ番組」の投稿を募集します。現在放送中のお薦め番組名とラジオ局名、その番組が好きな理由をどしどしお寄せください。締切は6月末で、字数は650字まで。採用された方には掲載誌1部と図書カードをお送りします。応募規定は62ページの「言葉の広場」と同じ。標題に「ラジオ特集」と明記してください。
 ラジオの魅力は多彩です。たとえばニュース報道・解説コーナーの多くでは、コメントにゆったり時間を割いています。自分と違う主張でも、ていねいに話しているため、その根拠や論理をつかむことができるのです。
 なお、ほとんどの話し手が早い段階から東京オリンピック・パラリンピックについて否定的でした。鋭い政権批判も日常的に聴けます。「御用コメンテーター」によって「中立」を装う多くのテレビ番組とはまったく違う言論空間が広がっているのです。深夜放送ではさらに自由度が高まります。
 投稿は、どんな番組でも受け付けます。一緒にラジオの魅力を発信してください。(伊田浩之)

▼34頁の星野智幸さんインタビュー記事では、小説『だまされ屋さん』のあらすじを、どの程度紹介するかで悩みました。小説を読んでいない読者にも、星野さんの語ったことを理解してほしいと思いつつ、小説の内容を説明しすぎないように配慮し、具体的なことは実際に読まないとわからないような表現にとどめています。
 というのは、未彩人や夕海が具体的にどんな大胆すぎる行動をするのか、ぜひ小説を読んでいただき、頭がクラクラする体験をしていただきたいからです。ちなみに私は、「なんじゃこいつ」に始まり「この人、すごいや」、そして「自分も未彩人から学びたい」、「この時代、未彩人のような人こそが『希望』なのかも」と思うに至りました。
 しかし、未彩人以上にぶっとんだ行動力を持つ人物が、この小説には登場します。夕海の窮状を救った薫里です。薫里は夏川家とは直接接点を持ちませんが、未彩人以上に頭をクラクラさせてくれました。そして、「人がともに生きる」ことの全く新たな可能性に気づかせてくれました。(植松青児)

▼外国につながる子どもたちを中心とした「居場所」づくりや学習支援、人権や教育・生活相談など在日外国人とともに生きる社会を築くための活動をしているNPO法人在日外国人教育生活相談センター・信愛塾(横浜市)の2020年度の事業報告があった。
 コロナ禍のなか、学習支援は一度にくる子どもの数を抑え、回数を増やして実施。また、休校で給食がなくなった子どものために、食事支援を積極的に行なったという。相談はLINEや電話によるものが増加し、年間で1000件を超えた。8割が10代後半~70代の女性で、内容はドメスティックバイオレンスや虐待、貧困、進学、いじめ、就労や労働問題など多岐にわたり、どんどん深刻になっていったとか。さらに、そこに在留資格が関係してくる複合的な相談も増加しているのだという。
 16日には、名古屋入管で亡くなったスリランカ人、ウィシュマさんの葬儀が、来日している家族も参加して行なわれた。同日、各地ではウィシュマさんを偲んで入管法改悪反対デモがあった。法を変えるより、まず彼女の死の真相を明らかにすべきだ。(吉田亮子)