週刊金曜日 編集後記

1353号

▼大好きな映画の一つに『花はんめ』(金聖雄監督、2004年)がある。川崎・桜本に住む在日朝鮮人一世のはんめ(おばあさん)たちのパワフルな日常が描かれた作品で、ロケ地ツアーに参加したり、はんめたちがカラオケや大音量の韓国民謡で踊って(!)楽しむ交流クラブ「トラヂの会」に取材に行ったりした思い出がある。
 その続編とも言うべき二つの物語『たんぽぽとマヌル 記憶のかけら』と『ヘイトとの闘い 絶望から希望を』(ともに仮題)が来夏公開に向け、プロジェクト「さくらもと」として動き始めた。戦争を語ることができる最後のはんめたちから、「在日の現在地」の一つのあり方を浮き彫りにしたいと金監督。応援支援はキムーンフィルムまで(https://kimoon.net/)。
 そして、金監督の冤罪シリーズ作品を音楽で応援しているのが谷川賢作さん、そのまた応援をしているのが小室等さんだ。『獄友』の主題歌は小室さんの作曲。11月20日(土)~26日(金)は東京・ポレポレ東中野で、小室さんの音楽活動60周年記念「映画音楽が聴こえるとき」として、音楽を担当したドキュメンタリー6作品が上映、ライブも! 私は『老人と海』を観に行きます。(吉田亮子)

▼学生時代に『極私的エロス・恋歌1974』を観て以来、ドキュメンタリー映画監督の原一男を追いかけてきた。元恋人の武田美由紀を沖縄まで追い、黒人兵との間にできた子どもの出産シーンまで撮った映像に衝撃を受けた。武田はフェミニズム前夜のウーマンリブの闘士として勝手に敬愛した。
天皇ヒロヒトの戦争責任をパチンコ玉で撃った奥崎謙三を撮った『ゆきゆきて、神軍』に驚愕し、脳性麻痺者の解放集団・青い芝の会の闘争を描いた『さようならCP』には震撼した。そんな私が原の三部作『水俣曼荼羅』を見逃すわけがない。日本記者クラブでの試写会には一番に申し込み、昼飯もクラブの食堂でかき込み、6時間の長丁場も苦にならなかった。
 原発被災地の福島にも来てくれた知己の水俣の語り部も出演。体中の痛みにサロンパスを貼りながら赤ん坊だった弟に乳をやっていた母が入院したとき、弟はサロンパスの箱を母の匂いとして握り締めながら眠ったことを話してくれた男だ。彼が最終盤、天皇・皇后を「陛下」と呼んで面会に行ったことを語るのに、延々とカメラを回し続ける原に対し、「なぜだ!」と怒りがわいた。凡百の映画評は読みたくもない。(本田雅和)

▼今月1日、新型コロナウイルスの新規感染者数が、東京で1桁、全国で2桁になった。ともに1年数カ月ぶり。全国の新規感染者数が日々2万人前後で推移した数カ月前を思えば、驚くほどの激減だ。
 短期間で大幅に減った理由について、政府は、ワクチン接種をはじめとする政策の効果をアピールする。一方、多くの医療関係者は、それだけでは説明がつかないとして、「医療崩壊」への危機感からくる「3密」回避の徹底など、複合的要因をあげるが、どれも実証データに欠け、モヤモヤが残る。
 そんななか、10月に、国立遺伝学研究所と新潟大学のチームが、ゲノム解析によれば〈急減はウイルスの「自滅」〉、との説を発表した(『東京新聞』11月3日付など)。ウイルスの複製ミスを修復する酵素の働きが落ちたから、というもので、昨年12月4日号の本誌で、児玉龍彦・東京大学名誉教授が語った変異によるウイルスの「自壊」にも通じて、なるほどと思う。
 ただ、前掲紙は海外からの新たな変異ウイルス流入への警鐘も鳴らす。折しも政府は、新規入国者に関してビジネス目的の水際対策緩和を検討している。総選挙の結果を受け、コロナ対策でも「強気」な岸田政権。怖い。(山村清二)

▼ハロウィーンが終わると街は一気にクリスマスモードに模様替えして、毎年その変わり身の早さに半分あきれながら、それでもなんとなくそわそわとした年末モードに巻き込まれていく。
 ハロウィーンの思い出は中学時代、英語の時間にかぼちゃ提灯の話を聞いたあたりが始まりだが、お菓子をもらうために町を練り歩くという経験はもっと小さな頃に楽しみにしていた「地蔵盆」につながっている。という話をしたら全く通じずあれはそんなに地域性のある行事なのだと逆に驚いた。
 祖母の住んでいた神戸の「地蔵盆」は夏休みの終わりも近づいた8月23、24日頃にやってくる。毎年その日に合わせて祖母の家に遊びに行っていた。町内の子どもが最寄りのお地蔵さんに行くとお菓子の詰め合わせがもらえる。1カ所では飽き足らず違うエリアのお地蔵さんまで足を延ばしてさらにもう1袋。そんな子どもたちがぞろぞろと歩いていたと記憶している。夜には盆踊りもあって、自分の名前の書かれた提灯が飾られているのが誇らしかった。震災ですっかり様子が変わってしまっただろうが、あのお地蔵さんはどうしているんだろうか。(志水邦江)