週刊金曜日 編集後記

1359号

▼絵本特集を企画・編集して、絵本のすばらしさをあらためて感じることができました。ご協力いただいたみなさまに感謝します。
 ただご紹介できたのは、ほんの一部です。絵本の世界はほんとうに広く、奥行きが深いのです。
 特集にもあるように図書館はとても大切な場所ですが、残念ながら、充実ぐあいは自治体によってさまざまです。32年前に取材でお世話になった竹内紀吉さんは〈図書館で働く者には、利用者に求められた資料について"草の根を分けても"探し出して答えようとする心意気がある〉〈地元の図書館を貧弱で行く気がしないと見はなすのではなく、骨までしゃぶるように使いこめば、全国各地の公立図書館ばかりではなく館種のことなる図書館や研究機関にまで、いながらにして触手をのばせるわけなのである。そういう使い方がまた身近な図書館を充実したものに育ててゆく〉(『図書館のある暮らし』、未來社)と書いています。
 その図書館にない本は、他館から取り寄せることができますし、予算があれば新たに購入することもあります。資料購入予算の増額を自治体議員に働きかけるのも大切だと思います。(伊田浩之)


▼特集内の「私の推し絵本」で1冊紹介してほしいと言われ、引き受けたものの好きな本が多すぎて絞れない! と頭を抱えた。
 幼少時からのお気に入りである古典の名作、バージニア・リー・バートン作『ちいさいおうち』か、笑って感動して死ぬのも怖くないなと思ったヨシタケシンスケ作『このあと どうしちゃおう』か、うさぎの子が泣きたいくらい可愛くて男の子を持つお母さんにプレゼントして喜ばれた酒井駒子作『ぼく おかあさんのこと...』にするか。この季節にぴったりで、皮肉をきかせつつ、くすり、ほろりとさせる東野圭吾作、杉田比呂美絵の『サンタのおばさん』もいいなあ。思いやりを分けていく少女によってモノクロの世界に少しずつ色のついていくジョナルノ・ローソン作、シドニー・スミス絵の『おはなをあげる』も素敵だし。
 最終的に選んだのは『二番目の悪者』だが、最後まで迷ったのが、いせひでこ作『ルリユールおじさん』と、山本けんぞう作、いせひでこ絵の『あの路』。どちらも美しく微笑ましく、そしてせつない珠玉の短編映画のような作品だ。あ〜もっと紹介したい。とにかくどれもおすすめです。(宮本有紀)


▼東京都武蔵野市議会の本会議場は、定数26の議会とは思えないほど立派だった。天井は高く、傍聴席は108席。これとは別に記者席が16席。
 12月13日、住民投票条例案を審議する総務委員会はこの本会議場で開催された。午前10時開会。私はその30分前に記者席に座った。テレビカメラが5台、記者席はほぼ埋まっていた。
 住民投票条例案は、2番目に審議される。他にも多くの議案がある。私は、午前中か午後の早い時間帯に採決だろう、と考えていた。とんでもない間違いだった。審議は夜まで続き、採決は午後8時半ごろになった。翌日が校了日のため、私は昼の休憩時間も席を離れず、原稿を書いた。つまり何も飲まず食わず、トイレに立つ以外、11時間ほど記者席にいたのである。
 その中で最も苦痛だったのが、3人の自民、公明議員の質疑をメモすることだった。あまりに空疎な内容だったからだ。両党は住民投票を定めた同市の自治基本条例に賛成している。とてもその精神を理解しているとは思えなかった。そこに日本社会に広がっている「排外主義」の匂いを感じざるを得なかったのである。(佐藤和雄)


▼2021年5月23日、絵本『はらぺこあおむし』の作者、エリック・カールさんが、米国マサチューセッツ州ノーサンプトンにて、家族に見守られながら息を引き取った。享年91。
 気がつけば12月。わが家は毎年、エリック・カールのカレンダーを購入していて、まるで「空気」のように家の壁の同じ場所に貼られている。ある年、年末になるまで買い忘れてしまい、(通販も含め)品切れになっていることに気づき、町中の店を探し回ったこともあった。今年もまた購入するのだが、(訃報を聞いたせいか)少しだけしんみりした気持ちになる。
 カレンダーと同様、システム手帳リフィルの交換もこの季節恒例の行事だ。今どき、手書きの手帳を使っている人間は減る一方だと思うが、やはり昔から続けてきた習慣なので、スケジュールや日々の記録を、アナログ的に書き込んでいくほうが性に合う。
 時代が変わっても、あえて「変わらなくてもいい」ものもあるのではなかろうか。今週号の絵本特集にも通じる「普遍的なもの」のチカラを、心と体が求めているような気がする。(本田政昭)