週刊金曜日 編集後記

1386号

▼7月13日午後3時40分過ぎ、東京地裁前は笑顔であふれました。東京電力の旧経営陣が津波対策を怠ったことで福島第一原発事故が発生し、東電に巨額の損害が生じたとして株主が勝俣恒久元会長(82歳)ら5人に会社への22兆円の損害賠償を求めた株主代表訴訟の判決で、東京地裁(朝倉佳秀裁判長)がこの日、勝俣元会長ら4人に計13兆3210億円の支払いを命じたからです。

 原発政策を推進した国の賠償責任は6月に最高裁が「東電に津波対策を義務付けても、事故は防げなかった」と否定した(本誌7月1日号参照)ばかりですが、今回の地裁判決は、原子炉建屋や重要機器室に浸水対策を行なっていれば〈重大事態に至ることを避けられた可能性は十分にあった〉(判決骨子)と明言しました。

 この間明らかになった事実や、昨年10月に原発事故の責任が問われた裁判としては初めて行なわれた裁判官による「現地進行協議」を基に、自信にあふれた判決だと、傍聴した法廷で感じました。

 詳細な記事は来週の7月29日号に掲載します。(伊田浩之)

▼選挙後、日本で初めて、トルコ国籍のクルド人が難民認定される見通し、というニュースが流された。日本の友好国であるトルコ出身のクルド人はこれまで、一度も難民として認定されてこなかったので朗報だ。国の難民不認定処分を取り消した札幌高裁判決は5月20日。期限の6月3日までに国は上告せず。判決が確定したことから、国がどのように対応するのか注目されてきた。今後、ほかのトルコ国籍のクルド人難民申請者に、これがどう影響するかどうかが重要だ。今回が唯一の例外にされてはいけないが、入管法改訂案再提出が心配される中でのことで「法案を通すため今回だけ認めるのかもしれない」(『東京新聞』)という声が出ているのも確かだ。

 ところで、今回の選挙2日前に安倍晋三元首相の殺害があり、ニュースはこのことであふれ、選挙への影響が懸念されたが、結果は、殺害前に出ていた事前の議席予測とそれほど誤差がなかった、ということもおさえておきたい。野党共闘が徹底できなかったことによる結果について、野党は向き合って総括する時だ。(渡部睦美)

▼いささか「メディアウオッチ」風になるのをお許し願いたい。

 岸田文雄首相(自民党総裁)が参院選の勝利を受けて党本部で記者会見を開いたのは7月11日。それを伝えた全国紙5紙(『朝日新聞』『毎日新聞』『読売新聞』『日経新聞』『産経新聞』東京本社最終版)の翌12日朝刊1面トップの見出しは、『朝日新聞』を除いてはみな「改憲発議」という言葉を使っていた(『毎日新聞』は、「首相、改憲『早く発議』」。)

 見出しのもとになった岸田氏の発言は、『読売新聞』の「首相会見要旨」によれば次の通りである。

「国会での議論をしっかりと前に進めていく中で、具体的な内容における3分の2の結集をしっかり図っていきたい。できる限り早く発議に至る取り組みを進めていく」

 記者たちが、岸田氏の発言をこれまで以上に「一歩踏み込んだ」と捉えて、「改憲発議」を見出しにとっても不自然ではない。

 ではなぜ、『朝日新聞』だけが「改憲『国会議論リードする』」という見出しにとどめたのか。推測は可能なのだが、すみません。紙幅が尽きました。次回に書きます。(佐藤和雄)

▼本誌常連執筆者・内田樹さんと本誌編集委員・想田和弘さんの対談を収録した単行本『下り坂のニッポンの幸福論』(青幻舎)を、飼い猫の尻尾になでられながら読み終わりました。対談場所は想田さんが住んでいる岡山県の牛窓(表3連載「猫様」でおなじみの茶太郎とチビシマも住んでます)。

 印象に残ったのは詩人の山尾三省さんが言っていたという「循環する時間」と「直進する時間」のお話。進化、進歩を前提とした「直進する時間」に生きているのは人間だけだそうで、猫様を筆頭にそれ以外の生き物は、日が昇って日が沈み季節が巡る自然に合わせて「循環する時間」を生きている。人間も「循環する時間」の比率を高めていければいいという話に大きく同意。「でもなぁ」とつい怯む心に「こうしたらいい」と思ったことは「やっちゃえばいい」という想田さんの言葉が心強い。

 帯には「幸せに生きるための現代社会への処方箋。」とあります。政治から宗教まで話題は幅広く、外れの人はいないのじゃないかと思われますが、都会の片隅で時間に追われて生きている方には特におすすめです。(志水邦江)