週刊金曜日 編集後記

1387号

▼僕の学生時代は、新左翼党派が内ゲバに突入した時代。学内でもセクトの学生が武装闘争を繰り返し、何カ月かに一度は死人も出た。公安や私服警官がそこら中をうろつき、三里塚闘争などに参加していた僕のようなノンセクトの学生も、しょっちゅう尾行されていた。

 ある夜、僕を尾行する若者に気づき、友人のS君と2人で待ち伏せして拘束したら学内サークル「聖書研究会」のTだった。査問するうちに、Tは統一教会信徒であることを認め、鞄に入っていた各セクトのビラや情報を公安調査庁職員に手渡しては、謝礼を受け取っていたことも自白した。

 Aの「神を信じている」との言葉に怒りを感じた僕は「お前の信仰なんてエセだ。恥を知れ」と声を荒らげた。しかし、隣でじっと耳を傾けていた、信州の牧師の息子のS君は「本田君、神を信じたことのない君にはわからんだろうが人の内心には立ち入るな」と涙を流して僕を諫めた。(本田雅和)

▼メディアを席巻する「統一教会」の文字で、霊感商法や合同結婚式が連日報じられていた時を思い出した。勧誘活動が盛んだった学生時代のことも思い出す。

「自分に自信がつく」「試験勉強も乗り切れる」という謳い文句で内容不明のサークル(後に統一教会のフロントサークルと判明)に誘われた友人がいて、心配だったので他の友人と共についていったことがある。年配の女性が出てきて「東大生でも不安なのよ。でもここに入って司法試験に受かった」「自分に自信のない人も明るくなった」などと説明するが、何をするのかは絶対に言わない。怪しいので思わず「勉強しないと試験は受かりませんよね。自信も自分でつけるものだし」と口出ししたら「あなたには必要ないようね」とシャットアウトされた。

 結局、誰も勧誘に乗らなかったのでやや険悪な雰囲気になり、シェルターみたいな建物から出られるのか不安だったことを覚えている。夏の恐怖体験だ。(宮本有紀)

▼「お前が歌うんだよ!」とディランが言った。

 本誌4月22日号「シリーズ・死を忘るるなかれ」に登場いただいたあがた森魚さんの発言だ。デビュー50周年・決定的大ベスト盤「ボブ・ディランと玄米」(4枚組CD全61曲)が、先日発売された。デビュー作から最新作まで、本人の選曲により名曲・代表曲をメジャー、インディーズ各社の枠を越え発表順に収録したもので、全曲リマスタリング、あがた史上最高音質の作品となった。

 8月24日には、アナログのベスト盤「ボブ・ディランと玄米少々」(1枚組LP全9曲)も発売予定。意外性に富んだ選曲、曲順まで練りに練ったものだ。

 そして9月22日(木)には、あがた森魚「50周年音楽會 渋谷公会堂」と銘打ってLINE CUBE SHIBUYAにてホールコンサートを開催する。73歳の今もなお転がり続けるあがた森魚さん。通過点を越えて歌は続く。(本田政昭)

▼本誌「言葉の広場」では、月ごとのテーマ以外に、時事のテーマを新たに立て、読者のご投稿をまとめて紹介させていただくことがあります。今週号では、「安倍晋三元首相死去」というテーマで、「事件を冷静に判断することが必要」「要人警備の在り方を問う」「当たるはずのない弾が当たる現象について」「日韓友好損なう『朝日新聞』の記事」という四つのご投稿を掲載しました。

 さて、「言葉の広場」の応募規定ですが、ご投稿は仮見出しをつけて650字程度とさせていただいています。13字組みで50行となります。「論考」は1150字程度で、16字組み、72行の掲載です。ご投稿の中には住所、電話番号等の連絡先が明記されていないものがありますのでご注意ください。

 8月のテーマは「『戦争』を考える」です。両親の戦争体験、親族や知人の死、平和への願いなどはもちろん、ウクライナ侵攻をはじめとする、いまも続く戦争について考えます。(秋山晴康)