週刊金曜日 編集後記

1390号

▼僕が国葬に反対なのは「アベ政治を許さない」からではない。死者は国家に弔われるべきではないからだ。理不尽な「殉死」や「戦死」を強いられた者も、その死は死者を愛する者が国家から取り戻し、悼むべきだから。僕は一記者としても、個人的にも、アベさんに言いたいことはいっぱいある。

 アベさんによれば、NHKの「慰安婦」特集番組への政治介入事件の取材で17年前のある日、「夜遅く」(真実は午後6時すぎ)、安倍邸を訪ねた僕は「風邪で寝込むアベさんを『取材拒否にしますよ』と脅してたたき起こし、玄関チャイムを10分間鳴らし続けた」という。すべてアベさんが捏造した事実無根のストーリーだ。本誌の今年1月14日号で僕が証拠を示して明らかにし、御健在だったアベさんにも反論インタビューを申し込んだが、回答なしだった。

 そして7月8日の銃撃である。僕はアベさんが真実を語らずに逝ったことは悔しくてならないが、あの日快く応対してくれた妻の昭恵さんには好感情しかない。国はアベさんを、愛する昭恵さんに返してあげてほしい。(本田雅和)

▼「院居士」「院大姉」まではよくある戒名だが、「院殿」「大居士」がつく戒名は大名や貴族など身分が高い人につけられていたもので、めったにつけられるものではないと教わってきた。

 ところが現在は大物政治家などにもつけるようで、安倍晋三氏の戒名は「紫雲院殿政譽清浄晋寿大居士」という非常に立派なものだった。国会論議を軽視し、首相でありながらヤジを飛ばしたり異論を受け入れずむきになって反論したりしたうえに118回も虚偽答弁を繰り返し、さらに自らの答弁の結果、公文書改竄をせまられた職員の自死を招いた人物である。徳高き人とはとても言えず、「アベ政治を許さない」という言葉ができるほどの施政をした元首相に対してふさわしい戒名なのか。

 モヤモヤしていたが、ヤフー知恵袋で「安倍晋三の戒名は観櫻院殿戦誉森計改法大居士ですか?」との質問を見つけて刮目。「道号は嘘百十八居士かも知れません」という返答もあって確かに、とうなる。みなさん、さすが。「アベ政治」も許せないし「アベ国葬」もやっぱり許せない。(宮本有紀)

▼コロナ禍で救急救命体制が逼迫していると聞きますが、先ごろ実体験しました。至近距離に住む義父の体調が悪化し、見えないものが見え、聞こえない音が聞こえる譫妄という症状が出ていたため、救急搬送を依頼しました。

 10分ほど待つと、消防車の先導で救急車が到着。意外な早さに驚きつつ一緒に車両に乗り込みましたが、なかなか発車しません。3人の救急救命士が、受け入れ先の病院を探して電話連絡しています。一つ目の病院からは、患者の発熱状況を聞かれ、救急隊員が「37度2分」と答えたところ、「コロナの疑いのある方は受け入れません」との返事。「重症患者は無理」「病床があいていない」などの理由で五つの病院に相次ぎ断られました。

 2時間ほどして受け入れてくれたのは、市を二つまたいだところにある病院でした。搬送の途中、サイレンを鳴らす救急車数台とすれ違いました。病院には他県ナンバーの救急車も来ていました。入院できるまで三十数時間待ちという話も聞きますが、救急医療現場の大変さ、受け入れの厳しさを目の当たりにしました。(秋山晴康)

▼2022年3月、北極と南極が熱波に襲われ、北極では平年より30度以上、南極では40度以上高くなった、という。世界各地で地球温暖化の影響からか異常気象による(と思われる)洪水被害や干ばつによる穀物生産の損失、山火事などが起こり、日本でも記録的な暑さが続き、線状降水帯による洪水被害が各地で発生している。

「あの年の夏は暑かったね」と言えるような未来はくるのだろうか。今、地球というひとつの「生命体」から人類の存続を試されている気さえする。新型コロナウイルスの世界中での感染拡大、戦争や国家間の緊張、核の危機、そして世界的な異常気象......。

 夏休みに『月刊ムー書評大全』星野太朗=著(青土社)を読んだ。超古代文明、UFO、妖怪、陰謀論、量子力学......オカルト関連書にとどまらず、天文学、考古学から理論物理学まで多岐にわたる本を扱った(雑誌の)ブックレビューを書籍化したものだ。想定外のさまざまな題材を探求する人間がこんなにいるとは。人類は面白すぎる。(期待を込めて)世界はたぶん大丈夫なのではないか、と(堕落的に)思う夏の日でした。(本田政昭)