週刊金曜日 編集後記

1395号

▼「安倍国葬」の日、会場となった日本武道館の周辺道路は、国葬反対を訴えるデモと、それに向かって「帰れ」「中国人!」などと罵倒する人たちと、衝突を防ごうと殺到する警官と、それを撮影するメディアなどで騒然としていた。安倍晋三氏は「すべての人の首相」ではなく「自分を支持する人の首相」であり、批判に耳を傾けず「こんな人たち」と排除してこの国に生きる民を分断してきた人ゆえに、最後まで人々の対立を煽る存在だったと記憶されるだろう。

 安倍氏の「負の遺産」は多数あるが、ジェンダーバッシングや同性愛者差別の発言を繰り返す山谷えり子氏や杉田水脈氏などを「論功行賞」のように優遇し、人権政策を後退させたこともその一つ。女性を叩くのに女性を矢面に立たせるやり口も、2000年初頭に性教育・ジェンダー教育バッシングを始めた時から変わらない。

 分断された溝を埋め、多様性と個の尊重される社会にするためには、自民党と統一教会を切り離すだけでは不十分だ。同様の主張を持つ多数の宗教右派組織から脱しなければ政治は変わらない。今がその好機ではないか。(宮本有紀)

▼それにしても、自衛隊の存在が不気味だった。安倍晋三元首相の国葬をテレビで見たが、白い制服を着た特別儀仗隊が会場の通路を埋め尽くしていた。一糸乱れぬ行進や骨壺を恭しく掲げるさまなどは、今はいったいいつの時代なのかと思わされた。安倍氏は、この「軍隊」(自衛隊)を指揮する長になりたかったのだろうな......。この、安倍氏をまるで「英霊」に仕立て上げた国葬は正しいやり方(演出)だったのだろうか? 直近で英エリザベス女王の国葬があっただけに、比べてしまった。

 当日、国会正門前で行なわれた反対集会では、本誌「なまくらのれん」を連載中の小室等さんが登場。次週、ご本人に報告していただく予定だが、「死んだ男の残したものは」(谷川俊太郎・作詞、武満徹・作曲)などを披露されたそうだ。当時、ベトナム反戦集会のために作られた歌だという。夜は、「あの人の独り言」を連載中の松崎菊也さんと石倉ちょっきさんの「うん国葬ライブ」へ。歌あり、都々逸あり、特別ゲストありで、こちらも練りに練られた演出の「葬儀」だった。(吉田亮子)

▼浜町に越してきて2週間ほど経ちましたが、イメージと違い、住んでいる方が多いのに驚きました。金曜日の入っているビルのまわりはマンションだらけ。ママチャリも頻繁に行き交い、お散歩している親子連れもたくさん見かけます。そうそう、ワンコも多いんです(かなりうれしい)。午後5時になると近くの学校から、帰宅をうながすチャイムの音が流れます。普通の住宅街の普通の風景なので、本当に意外でした。

 で、不思議なのは、これだけマンションが立ち並び、住民も多いのに、スーパーが見当たらないこと。あるのはまいばすけっと(イオン系列の小規模スーパー。ざっくりいえばコンビニに毛が生えたようなもの)で、これは子どもがいる家庭にはまったく不向き。たとえば、イオンとかららぽーととか、あるいは西友とかイトーヨーカドーとか、あるいはコストコといった普段使いのお店が全然見当たりません。まさかみなさん、日本橋三越で買い物していらっしゃる?

 ところで国葬と国葬儀って、何がどう違うんですか?(渡辺妙子)

▼ユダヤ人の祖母と在日コリアンの父を持つピアニストのジャンミッシェル・キムさん(本誌2021年7月23日号「歓喜へのフーガ」に登場)。世代を超え、受け継いださまざまな苦しみや悲しみが、彼の演奏に深みを与えている。

 この秋、念願のピアノリサイタルが日本各地で開催される。お近くのかたは是非とも足を運んでみてはいかがだろうか。

 演目は、ショパン「幻想曲ヘ短調作品49」、ベートーヴェン「ピアノソナタ第23番ヘ短調熱情作品57」、ラフマニノフ「ピアノソナタ第2番作品36」、ドビュッシー「映像第2集」を予定。

 10月29日(土)、京都コンサートホール アンサンブルホールムラタにて14時開演。チケットのお問い合わせは、080・2480・6817(内村)まで。

 11月4日(金)、長野市芸術館にて19時開演。お問い合わせは、090・1606・9948のJMK実行委員会(山中)まで。

 11月6日(日)、東京トッパンホールにて14時開演。お問い合わせは、050・5532・7438(キム)まで。全席自由で4000円(一般)。学割あり。(尹史承)