週刊金曜日 編集後記

1398号

▼ジャーナリストの伊藤詩織さんが杉田水脈議員を訴えた控訴審判決で逆転勝訴した。自らを誹謗中傷するツイートに「いいね」を押し続ける行為で名誉感情を侵害されたと訴えたが、一審では棄却されていた訴訟だ(詳細は7ページの小川たまかさん記事をどうぞ)。

 この判決報道に対し、〈「いいね」を押しただけで名誉毀損になるのはおかしい〉的な投稿もされていたが、「押しただけ」ではない。判決文では、伊藤さんを貶める投稿を選んで25回も「いいね」を押し、その失礼な内容を自分でも積極的に発信していること、そして当時11万人ものフォロワーを持つ国会議員という立場であることをすべて考慮している。「いいね」を押したのはブックマーク機能としてで誹謗中傷の意図はないという杉田議員の主張がいかに通用しないかがわかる丁寧な説明ぶりだ。

 一審判決は3月。たった7カ月後にそれを覆す判決が出た。背景には政治情勢の変化もあるかもしれないが、この間の世論の高まり、そして何より伊藤さんらの勇気ある行動の賜物と思う。(宮本有紀)

▼東京は晴天が続くので、出勤途中でお散歩をする園児たちに出くわす。気持ちよさそうだな。座りこむ子ども、靴が脱げてしまう子ども、先生方もたいへんだ。

 今夏、発生した送迎バスでの園児置き去り死亡事故の再発防止策への竹信三恵子さんによる今週号の批判記事には、うなずく。「警報装置と罰則頼み」では危うすぎる。「バスが園に着くと......多数の小さな子どもたちが一斉に飛び出し」とある。最新のAIを搭載しても機具は人間の補助手段、まずは人手を増やすことが先決だろう。

 苦い思い出がある。台風で園が早仕舞いの日、近くに住む傘をもつ園児をそそのかしてバスに乗らず、こっそりあいあい傘で帰ってしまったのだ。冒険心、いやちょっとした出来心? 翌日先生に事情を聞かれて「もうしません」と約束したことだけは覚えている。先生方はどこで気がついたのか。

 小さな子ども相手ではいろんなケースがあるだろう。事故が続く根本原因は、実態を無視し続ける政権担当者の人的エラーという批判は当たっている。(小林和子)

▼死者・行方不明者63人を出した御嶽山(長野・岐阜県境)の噴火災害から8年。今年8月、御嶽山の自然や成り立ちを紹介し、登山者や地域住民に火山防災を学んでもらうための長野県立御嶽山ビジターセンターが、ふもとの木曽町と王滝村に1カ所ずつ造られた。オープンしたと知り、9月の連休中、訪れた。

 噴火災害を伝承するため、体験談を映像で紹介し、噴石の直撃で曲がった山頂階段の手すりなどを展示。灰が付いた眼鏡や登山用具など遺族から借りた展示物もある。

 王滝村のセンターに展示されている写真に釘付けになった。噴火直前、山頂で撮られた1枚。登り終えた長山照利さん(当時11歳)が、友人と楽しげに弁当を食べている様子。数分後に惨劇が襲うとは知らずに――。思わず涙が出た。長山さんは噴石によって亡くなった。写真のそばには長山さんの帽子とパーカーも展示されている。

 噴火災害を風化させず、命を落とす人が再び出ないように――。展示物には多くの遺族たちの思いが込められている。(小川直樹)

▼毎週、本誌を紹介するYouTube動画を制作してネット配信をしています。編集長の文聖姫が今週発売号の読みどころを解説する番組で、読者を増やすためのツールでもあります。この『週刊金曜日ちゃんねる』は2014年に開設していますが、人の手が追いつかず、しばらく更新が滞っていました。公式サイトにリンクの画面があるため、まずはそこに動きをもたせようということで、昨年5月から動画配信作業を再開しています。

現在、再生回数がなかなか増えていかないことが悩みのタネですが、先日、読者の方からこの動画を「楽しみにしているが、音声が小さくて聞き取れない」という電話を頂戴しました。それは私の格安スマホで撮影していたのですから合点のいく話です。その声に応えて、新事務所からの配信はビデオカメラを用意しました。聞き取りにくかった音声と不鮮明だった画像は、少し解消できたのではないでしょうか。さて、次は再生数を増やすことに注力する段階だと思っています。(町田明穂)