週刊金曜日 編集後記

1401号

▼初めて劇映画の撮影現場を取材した。森達也さんが監督を務める『福田村事件(仮題)』。蝉時雨が降りしきる残暑のなか、緊迫した場面が続くことと、撮影の合間にみせるスタッフたちの細やかな気配りが印象的だった。イメージした映像を実際に現場で組み立てていく作業は緻密で、「まさに職人芸」との思いを強く持った。

 映画には、多くのエキストラがボランティアで参加している。スタッフがフェイスブックで、望月衣塑子さん(『東京新聞』記者、森達也さんの前作『i―新聞記者ドキュメント―』の主人公)の参加を公表したことも話題を呼んだ。

 ところで、今回の記事の写真では、「虐殺シーン」そのものは掲載していない。迫力ある場面は、ぜひ劇場で観ていただきたい。

 映画のきっかけのひとつが記事中でも紹介した中川五郎さんのCD2枚組『どうぞ裸になって下さい』。朝鮮人差別を扱った別の大作も入っている。このアルバムもお薦めだ。(伊田浩之)

▼旧日本軍「慰安婦」制度の責任を問うNHKの特集番組に自民党の故・安倍晋三氏らが介入して番組を改竄させた問題で、朝日新聞記者だった私が作成したインタビュー記録が社外に流出した事件があった。ジャーナリストの魚住昭氏が私の記事の正確さを証明しようと、月刊誌に全文掲載した。私が疑われて社内で査問を受けた。

 そんな折、警視庁キャップも務めた元社会部長に築地の割烹に呼び出され、「お前が流出犯でないことは知っている。公安がそう言っているから」と"励まされ"た。元部下の証言よりも公安警察を信じる朝日幹部の発想は悲しかったが、「公安すげえな」とも思った。

 当時、『週刊新潮』からもデタラメ記事で攻撃を受けていたが、新潮社内には私の協力者がおり、安倍筋から編集部に、私の学生運動の記録やフェミニズムの研究論文に関する公安情報が送られてきたこと、次号の見出しなども教えてくれていた。いずれ詳細は明らかにしたい。(本田雅和)

▼大学駅伝の季節がやってきた。出雲、全日本に続き、正月の箱根駅伝に注目が高まる。我が母校は数年前、低迷していたが、昨年から復調し、喜ばしい限りだ。

 それはさておき、近年の箱根駅伝人気は私の学生時代と比べものにならないほど高い。視聴率は30%前後で、12月になると選手紹介の雑誌が書店にたくさん並ぶ。大学当局やOBたちの視線も熱い。

 それだけに出場する選手たちの重圧は相当なものだろう。最近はインターネットやSNSの普及で、選手個々の注目度も高く、関連記事も多くなり、膨大なコメントが書き込まれる。ブレーキになったら「1区は○○が誤算だった」などと名指しされてしまう。

 箱根駅伝はプロスポーツではない。「母校の襷をつなぐ」「伝統の力を見せる」とか過度にプレッシャーをかける必要はあるまい。選手たちは自分自身のために走ればいいし、観る側もおおらかな気分で応援したいものだ。(小川直樹)

▼オフィスを移転してふた月、新しい環境にも慣れつつある。神保町ではランチのあとは書店めぐりをしていたが、浜町は自然が多いので「花めぐり」になりそうな気配。最寄り駅出口のすぐそばに金木犀の植え込みを見つけた時は嬉しくて3センチくらい飛び上がり、行き帰りに芳香を楽しんだ。

 近くの公園ではいま、コスモスや萩の花が咲き、ピラカンサの赤い実がゆれている。銀杏も色づき始めた。桜や紫陽花の木もあり、季節がめぐればさまざまな花が楽しめそうだ。しかもこの公園、近くの保育園児たちのお散歩コースに入っているらしく、先日は細い道ですれ違った時に口々にかわいらしく「こんにちは」と挨拶してくれた。いいところだなあ。

 ただ、本好きには書店めぐりも欠かせない。私は通勤路に神保町があるのでたまに寄り道して帰る。先日は3年ぶりに復活した「神田古本まつり」をのぞき、本とカレーを堪能した。(宮本有紀)