週刊金曜日 編集後記

1405号

▼中国のゼロコロナ政策や強権政治に対し、若者が白い紙を掲げて抗議する運動が国内外で広がっている。そこにメッセージを記さないのは、言論統制下の中国では、それが摘発の対象となるためだ。

 無言の抗議は現在開催中のカタールワールドカップ(W杯)でも見受けられる。出場国の一つ、デンマーク代表にユニホームを提供するヒュンメルは、通常、黒や白字で目立たせる自社のロゴを、ユニホーム本体の色と同色とした。

「カタールとその人権問題に対する抗議である」「われわれは何千人もの命を奪った大会で目立ちたくはない」と抗議声明を出した。「チームのユニホームに政治的声明を出すことを禁止する」というFIFAの規定を逆手に取った形だ。さらにデンマークは抗議行動の一環として、選手の家族や不要な報道関係者らをカタールに入国させず、大会の商業的利益を最小限にするように努めたという。

 翻ってW杯の消費に努めたのが日本だ。東京五輪同様、その狂騒ぶりには呆れ果てる。(尹史承)

▼長年の「賃下げ(日本だけ)」「円安」にコロナ禍とインフレ直撃で生活は苦しくなる一方。それなのに大企業の内部留保は過去最高を更新して505・4兆円という。どこの世界の話かと耳を疑う。

 一方、「隠れた補助金」と言われている租税特別措置の見直しが進まないという(『朝日新聞』12月7日付)。同措置とは"儲かっている企業に条件つきの税負担軽減をして政策目的を達成する仕組み"だ。利用実績も、適用を受けている企業名も不明。税負担の公平性を歪めるものだ。

 本誌でも峰崎直樹・元財務副大臣に、透明化を進めよ、との提言を書いて戴いたことがある。『朝日』の報道によると税収は年8兆円にも及ぶ。今年度で期限切れの50項目以上を延長する方針を政府・与党が固めたとのこと。総務省のサイトをみると、評価が低いものもなぜか延長になっている。

 こんな状況で防衛費増額のために増税の話が出ている。いろんな意味で「それはないでしょう」。(小林和子)

▼W杯カタール大会では、日本の若い選手たちが躍動したが、森保一監督の采配にも注目が集まった。どっしり構え、選手をしっかり見て力を引き出し、試合の展開に応じて的確に投入。選手やファンへ心のこもった言葉も発した。

 プロ野球で今年優勝したヤクルトの高津臣吾監督やオリックスの中嶋聡監督にも共通することだろう。同世代の管理職らはこうしたリーダーに注目し、人の使い方を学ぼうとしているのではないか。

 では政治のリーダーは? 閣僚辞任が相次いだ際、識者談話で「岸田文雄首相はリーダーの資質を欠いている」と新聞に出ていた。この談話にうなずいた。政治とスポーツでは次元が違うが、政治も人間がするものであり、リーダーが人を見極め、動かし、束ねることが求められる点では同じだろう。

 度重なる方針のぶれ、遅い判断、人を見る目のなさ、下に責任を転嫁、判で押したような軽くて響かない言葉――。う~ん。どうする? 岸田さん。(小川直樹)

▼笑って泣いて、笑って泣いて......、感情を大いに揺さぶられる舞台だった。二兎社の『歌わせたい男たち』(作・演出/永井愛)は本誌11月18日号で崔善愛編集委員が永井さんにインタビューしたとおり、ある公立高校の卒業式での「国歌斉唱」をめぐって、極限状態に追い込まれた教師たちの姿を描く(公演は全国ツアー中)。

 設定は2008年。以下は台詞の一部だ。「君が代」不起立を行なおうとしている教師が「不起立だけでガチの左翼って言われる。デモも署名もしたことがないのに」。卒業式でどんな自由が残っているか聞かれた校長が「来賓の祝辞、......紅白の幕を出すかどうかだって自由」と答えると、聞いていた教師が「冗談でしょ?」。

 一方、音楽講師(キムラ緑子)がシャンソン「聞かせてよ愛の言葉を」を心から歌う姿がよかった。「日の丸・君が代」強制については、国連機関から是正勧告を引き出した元教師らがいる。今月末の合併号で報告したい。(吉田亮子)