週刊金曜日 編集後記

1407号

▼年始早々、ハッカー集団のアノニマスが、東京・渋谷区のウェブサイトにサイバー攻撃をかけた。ツイッターを見ると、「#美竹公園再開発」「#神宮通公園強制排除」などのハッシュタグをつけて、アノニマスが「野宿の人たちの声に耳を傾けることなく強制的に排除する渋谷区の行いを容認しない」とツイートしていた。昨年12月20日、年の暮れも押し迫る中、美竹公園で行政代執行が強行されてから、野宿の人たちは近くの神宮通公園に避難していたが、区は公園を利用禁止にし、暴力的に荷物を取り上げるなど強硬手段を続けている。行政代執行が行なわれる前、区議会でそのための補正予算が可決された。傍聴に行った際、野宿の人たちが区議会で抗議の声を上げる場面があったが、その声を前に、嘲笑したり暴言を吐く議員が何人もいた。長谷部健区長も肩で笑うような態度で、こうした態度が議員たちや区の職員の意識にもつながっているのではないかと感じた。「耳を傾ける」という行政の基本が、あまりにもないがしろにされている。 (渡部睦美)

▼2013年11月、日本維新の会所属だった杉田水脈議員が衆院法務委員会で質問し、婚外子相続差別規定を違憲とした同年9月の最高裁判決に異議を唱えた。曰く「裁判官も人間ですので、いつも正しい判断をするというわけではないと思います」「この国会が、国民の世論とは違う場合でも最高裁判所の決定に従わざるを得ない今のあり方というのは、本当に三権分立と言えるのかどうか」云々。

 三権分立も理解していないのかと仰天した。以来、杉田氏の問題発言をいくつもとりあげてきたが、総務政務官辞任に追い込まれた今に至っても同氏は自分の何が問題なのか理解していないと思う。現に「真意がなかなか理解されない」「支援してくれる方々がいっぱいいるので、その方々の代弁者として」頑張っていきたいと述べたと報じられている。つまり、これまでの差別発言を支持する人たちの代弁者として今後も頑張るつもりなのだ。その人権感覚で「頑張って」もらっては困るので、政務官辞職にとどまらず議員も辞職してほしい。(宮本有紀)

▼雑誌『話の特集』の元編集長で、ジャーナリストの矢崎泰久さんが2022年12月30日、急性白血病で亡くなられました。89歳でした。

『話の特集』休刊後、矢崎さんは『週刊金曜日』で1995年11月3日号から「話の特集」連載(4ページ)を開始。最初の執筆者は永六輔、岩城宏之、長新太、矢崎の各氏(いずれも故人)でした。

 連載は本誌読者の熱い支持を受け、2022年6月3日号まで595回続きました。最終回で矢崎さんは〈私は「戦争」を心底から呪う。〉と書きました。反権力、反権威、反体制を貫いた人でした。

 一方で、ユーモアにもあふれ、弊誌編集部でも興味深い話をたくさんうかがいました。息子の矢崎飛鳥さんはネット上にこう書いています。〈"遊びの天才"の異名をもち、人々に慕われ、最期まで決して枯れることのなかった父。それなりに、いい人生だったのではないでしょうか。〉

 雑誌の世界に一時代を画した矢崎さんの才能と努力に敬意を表し、反権力などの姿勢を引き継ぎたいと思います。合掌。(伊田浩之)

▼今週号の「祀りをたずねて」では「七福神信仰」を掲載しました。実は、昨年9月に編集部が引っ越してきた界隈にも「日本橋七福神」があります。日本橋通りや人形町通りは、江戸下町の伝統を持つ繁華街であることから、今でも受け継がれています。それぞれの神社が近いため日本で一番巡拝が短時間でできるのも特長のひとつ。今年は本誌も30周年。改めて「七福神」に挨拶してきましょうかね。

 引っ越してきて困ったことは図書館が少し遠くなったこと。神保町時代は図書館まで徒歩5分でしたが、人形町駅近くの日本橋図書館までは徒歩13分。ランチがてら通っています。そして昨年12月、八丁堀駅そばに「本の森ちゅうおう」(京橋図書館が移転・郷土資料館が併設)が新たにオープン。「森の階層構造」にならい、各階の室内環境の変化を体感できる複合施設です。屋上庭園やラウンジ、多目的ホールやカフェも併設され、ガラス越しに空が見える明るい構造なのだが、日差しの影響で蔵書が日焼けしないかと、少し心配してしまうのでした。(本田政昭)