週刊金曜日 編集後記

1411号

▼熱心な愛読者ではないが、気持ちにゆとりがあるときは、『朝日新聞』の日曜日の朝刊に掲載される短歌と俳句のページ「朝日歌壇・俳壇」を読むようにしている。印象的な作品は、すぐに傍らのスマホにメモをして、時折読み返している。

 1月29日の朝、そのページを見ていると、岸田文雄政権の原発回帰・原発推進をテーマにした短歌2首が、私の目をとらえた。

「3・11から12年」の特集の冒頭のページ(社内では「扉」と呼んでいる)の文章を私が書くことになったとき、まず心に浮かんだのが先の2首だった。

 少なからずの人が抱く疑問。そして疑問を超えて、怒りを覚える人もかなりの数でいるに違いない(私もその一人だ)。そのことをこの2首を紹介し、伝えたかった。

 為政者の言葉は一体、どこに、だれに向けられているのか。国会でのやり取りを聞いていると、花がしおれていくような虚しい気分を覚える。(佐藤和雄)

▼電気代・ガス代の高騰ぶりに驚く。利用通知票を数年遡って比較してみると、アンペア数も使用電力量も減っているのに払う額は増えている。ガスも使用量は同程度なのに支払いは増。ため息。

 世界的なエネルギー価格高騰の影響で食料品も生活必需品もどんどん値上がりし、生活が苦しくなっている。それなのに政府は兆単位の防衛費をつぎ込み、寒波押し寄せる冬に電力危機だといって庶民が使う微々たる電気は節電させる。もはや「新しい戦前」どころか「戦中」レベルではないか。

 ニュースでは防衛費増額の財源や増税の是非についてばかりとりあげるが、焦点のズレにいらいらする。そもそも「武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する」という憲法に思い切り違反した「防衛費増額」こそが根本的な問題だ。何より守らなくてはならないのは市民の生活と命。それを侵害する「防衛費」など矛盾も甚だしい。(宮本有紀)

▼「ロッド・スチュワートが英政権交代訴え、生番組にサプライズ電話」(ロイター)のニュースをみた。「セイリング」等のヒットで知られる英国の歌手がコロナ禍の影響などで逼迫している医療制度の現状に怒りを爆発させ、長年の保守党支持をやめたとのこと。「何をいまさら」と思ったが、いや痛い目に遭わないとわからないということなら、自分も同じ......。

「救急車がきても、搬送先が決まらず出発できない」「搬送された病院にも置いてもらえない」。実家の母が二度目の転倒で動けなくなり、救急車を呼んだ時、それが本当のことだと思い知った。

 結局特養のお世話になったのだが、91歳の母には怒濤のような出来事に、認知が追いつかない。自分がなぜ、ここにいるのかわからず、痛む体でベッドを抜け出そうとする。今度は特養から退所勧告が。困った。(小林和子)

▼私の朝日新聞記者時代の取材に関し、安倍晋三・元首相は数多くの虚偽を公の場で流し続けていた(本誌昨年1月14日号などで既報)。彼が銃撃されて亡くなったことは、私個人にとっても大変な衝撃だった。亡くなる前に真実を語ってほしかったから、一人の記者としてよりも一人の人間として折に触れ、彼には何度か手紙を書いてきた。その安倍氏を銃撃した山上徹也という男と、彼の為した行為について、平井玄氏と杉田俊介氏、70代と40代の親子ほども年の離れた2人の思想家に、対談してもらうという企画を立てた。

「遅れてきた全共闘世代」と「ロスジェネ世代」。ともに疎外された個を拠点に社会と誠実に格闘してきた両人だ。対談中は「"山上"を生み出したものこそ私たちの社会の貧困では?」「いや"山上"とは私たち自身ではなかったのか?」との問いが、何度も胸に突き刺さってきた。司会は取材を通じて平井氏の知己でもあった元本誌編集部員の山村清二氏が務めた。次号に掲載予定だ。(本田雅和)