週刊金曜日 編集後記

1413号

▼岸田文雄首相は2月15日の衆議院予算委員会で、同性婚や選択的夫婦別姓の法制化について「いつまでに結論を出せという課題ではない」と述べた。棚上げである。

 安倍晋三氏の国葬や、防衛費をめぐる増税などは、即断で閣議決定するのに、世論調査で半数以上が賛成した同性婚などの法制化には及び腰だ。岸田首相いわく、「家族観や価値観、社会が変わってしまう」とのことだが、それは自民党を支える保守層や、カルト宗教団体が守ってきた価値観だ。社会はすでに多様性を認め合い、さまざまな家族のあり方を尊重する方向へと変わっている。主要7カ国(G7)で同性婚を法的に認めていないのは日本だけである。

 荒井勝喜元首相秘書官は「(性的少数者を)見るのも嫌だ。隣に住んでいるのもちょっと嫌だ」「同性婚を認めたら国を捨てる人が出てくる」などと発言したが、それは逆である。法制化されていないがために排外され、性自認に苦しみ、本当に国を捨てざるを得ないひとたちがいるのが現状だ。私は人権感覚が欠落した差別主義者らがその要職についていることのほうがよっぽど嫌である。(尹史承)

▼マイナンバーカード取得への圧力がますます強まっている。来年秋に健康保険証を廃止してマイナンバーカードと一体化する問題について、カードを持っていない人が取得する「資格確認書」の手数料を有料とする方針は撤回して無料とするとしたものの、確認書の有効期限は1年しか設けないという(現在の健康保険証は有効期限2年で自動更新)。

 政府は、今年3月末までに「全住民」にマイナンバーカードを取得させることを目指してきたが、現在の普及率は7割ほど。マイナンバーカードの取得は義務ではないにもかかわらず、「健康」を人質にして、あたかも取得が義務であるかのような環境を作り、この目標を達成しようとしているように見える。「マイナポイント第2弾」もポイントの申込期限を延長するという。カードを取得していない人たちのもとには、カードを申請するように何度も手紙が届いていて、「本当に取得しなくて大丈夫なのか」と問い合わせを受けることもある。

 今国会で法案が提出される予定で、非常に危険だ。(渡部睦美)

▼地元のスーパーから、卵が消えました。卵コーナーは、清々しいほどすっからかん。ここまでからになったのは、3・11以来ではないでしょうか。すっからかんになった棚の前で、「ついに来たか」と私は独りごちました。そう、ついに来たのです。あれが。

 今、鳥インフルエンザが猛威をふるっており、1月10日時点で全国で約1008万羽もの鳥が殺処分されているとのこと(農林水産省発表)。わが家地方にある養鶏場でも発生しました。多摩動物公園がしばし休園という事態にもなっています。鳥に関係するお仕事をしている方々は、気が気じゃないと思います。

 長らく「物価の優等生」と言われ、私たちの食生活を支えてくれている卵(と卵を産むニワトリさんたち)。飼料高騰による値上がりもあるでしょうし、鳥インフルで卵の供給が減れば、そのうち卵を使った食品にも影響が出るでしょう。「食べ物は工業製品ではない」ということを、鳥インフルは突きつけていると思います。まあでも、日銀総裁はじめ、買い物に行かない方たちは知らないでしょうねー。(渡辺妙子)

▼高校時代の同期K君が、東京・町田で「命」をテーマとした子どもと親がともに学び、育つ体験的環境学習というプロジェクトを行なっています。活動歴は17年。「継続は力なり」、その地域密着活動の実践には頭が下がります。

 先日、「講師としてOさんを呼んだから」と連絡を受け、特別参加しました。Oさんは、当時、同学年で3人しかいなかった部活仲間で、大学でホルモンの研究をし、学生たちに教えています。

 Oさんは、会場の子どもたちに「成長ホルモンは夜、深い眠りに入ったときにつくられるの。だから、寝ないでゲームばかりやっていると成長できないよ」と、語りかけるように話していきました。

 その日は、Oさんの夫君も講師として臨席。魚の著名な研究者で、興味をひいたのが「海水を薄くすると、塩を排出し続けなければいけないというストレスがなくなり、魚の成長がよくなる」という話。ホルモンと成長、そしてストレスと成長......「成長って何?」という疑問はさておいて、人間も、ストレスがなくなると「成長」できるのでしょうか。(秋山晴康)