週刊金曜日 編集後記

1421号

▼今号の特集「ここがおかしい『安倍晋三 回顧録』」を担当した。『回顧録』に書かれなかった事を原稿にまとめたが、その中で触れなかった事例を一つ。2007年7月16日午前、安倍第1次政権で参議院選挙が行なわれた最中、新潟県中越沖地震が発生した。柏崎市などで大きな被害が出て、15人が亡くなった。安倍氏は遊説中だったが、急きょ予定を変更し、その日のうちに視察のため現地入りした。

 当時、安倍氏の姿勢に強い違和感を抱いた。大災害発生直後なら官邸の政府対策本部で初動を指揮するのが通常の対応だろう。発生当日の自治体は被害の把握や救助活動に手一杯のはず。首相が秘書官や官僚らを大勢引き連れて来ても、混乱の中、応対や説明をする側は困っただけではないだろうか。

 安倍氏は被災地が心配でいてもたってもいられなかったのか、自治体側は安倍氏視察を心強く感じたのか、分からない。だが人の不幸の中、「危機対応力をアピールしたい」「票につなげたい」という狙いがあったのではないか、という疑問は今も残る。(小川直樹)

▼郵送された本とそれを入れたクッション封筒をいまも宝物のように大事にしている。

 宛名は英文で「Mr.Kazuo Sato」と書かれ、送り主として、東京都世田谷区成城の住所と「大江健三郎」の名前がある。1995年10月に成城の郵便局で投函されたものだ。

 その少し前、新聞社のニューヨーク特派員だった私は、大江さんを囲むニューヨークでのある集まりで、彼と初めて会い、親しくお話をさせていただいた。

 ある作品が10代の私にとって生きる指針でした――。

 私がそう告げると、彼は少し困ったような顔をした。「実は今度の全集にはそれは入っていないんだよ」

 私はそれほど落胆した訳でもなかったが、彼は気の毒そうにこう言ったのだ。

「そうだ。初版本を出版社から取り寄せて送ってあげましょう」

 その言葉通り、本が届いた。本の扉には大江さんの独特の書体でマヤコフスキーの詩の一節が私に宛てて書かれていた。(佐藤和雄)

▼15秒から3分までのショートムービーである「Tik Tok」を、たまに観ています。総務省のSNS調査によると、「Tik Tok」は10代の若者を中心に支持され、世界中で10億を超える人が毎月アクセスしているそうです。

 この「Tik Tok」の流行語大賞2021に輝いたNさんが、元宝塚歌劇「雪組」トップスターの望海風斗(愛称、だいもん)さん主演の舞台『ドリームガールズ』に出演し、3月26日の名古屋公演で千秋楽を迎えました。

 ノンフィクション作家の久田恵さんと「パペレッタ」という人形音楽劇を演っていたことがあります。そのとき編集者の母親とともに、小学生で参加していたのがNさんです。それにしても、まさか、だいもんさんと共演することになるとは......。

 東京国際フォーラムでの公演の舞台は圧巻でした。Nさんも、成長した迫力ある歌声を披露してくれました。公演を終えた今、感動を直接伝えることができたらと思っています。(秋山晴康)

▼1979年12月19日、東京・中野サンプラザにてイエロー・マジック・オーケストラ(YMO)の凱旋公演を観た。オープニングアクトにはシーナ&ザ・ロケッツも出演した。あれから44年、鮎川誠、高橋幸宏、そして坂本龍一と次々に逝ってしまった。かくてYMOは細野晴臣さんだけになった。悲しい。「ライディーン」「テクノポリス」もいいが「ビハインド・ザ・マスク」という曲(坂本龍一作曲)もいい。直訳するとマスクの裏側ということだが......。

 マスクの裏側に隠された数字が暴かれたのが「アベノマスク」。『朝日新聞』によるとマスクの単価や枚数が判明した。契約単価は62円から150円で業者や契約時期によって差があったそうだ。(総理の意向で)早く大量に調達する必要があり「言い値」になったことを隠したかったのだろう。これが「アベノマスク」の正体だ。

 余談だが、先日、社外で呼び止められたものの相手の顔を思い出せない。マスクをはずしていたからだ。名乗られて取引先の営業担当者だと気づいた。まさにビハインド・ザ・マスク?(原口広矢)