週刊金曜日 編集後記

1422号

▼今週から5回にわたって、韓国人政治犯の連載をお届けする。「北のスパイ」として公安当局、軍に捕らえられ、有罪判決を受け服役した在日韓国人の方々のことだ。その数は数百人に上るとみられる。2000年代に入って再審裁判が相次ぎ、大半が当局による拷問で虚偽の自白をさせられ「捏造」された事件であるとして、無罪宣告が続いているという。

 冤罪を晴らすことがどれだけ大変かは、袴田事件を見てもわかる。裁判の場で名誉回復が行なわれていることはそれだけで凄いこと。しかし、でっち上げ事件がそれだけ作られたという事実、また、その被害者が日本社会のなかに何百人もいるときくと、素朴に問いたくなる。「一体なぜ?」。

 筆者は、大手通信社で健筆を揮われてきた福島尚文さんだ。ソウル、ハノイ、ニューヨークなどに駐在経験をもち、朝鮮民主主義人民共和国も取材されている。この問題が現在の日本に生きる私たちに何を問うているのか、連載とともに考えたい。(小林和子)

▼3月1日から4月2日まで東京・池之端の古書ほうろうで新田樹さんの写真展「Sakhalin2010~2018」が開催されていた。

かつて樺太にやってきた日本人の多くが本土へ引き揚げた後も、かの地に留まることを強いられた朝鮮人とその配偶者の日本人女性たちの物語だ。本棚の隙間などを利用し、写真と古書が互いに響きあうようなユニークな展示だった。

 この3月、新田樹さんが写真集『Sakhalin』で「林忠彦賞」、「木村伊兵衛写真賞」を連続受賞した。古書ほうろうでも3月31日に『世界を文学でどう描けるか』(図書出版みぎわ)を刊行した黒川創さんとの対談イベントが急遽開催された。写真を見て、対談を聞き、その人柄を知り、4月28日からの東京での二つの受賞記念写真展の展示に合わせ、本誌に掲載したいと、新田さんに急遽依頼をした。

 結果、今週号でサハリンから韓国に帰国した人たちを取材した「コヒャンマウル サハリン残留朝鮮・韓国人の故郷村」を掲載。これは未発表の新作です。(本田政昭)

▼新聞記者時代、海外取材の多くは戦場や紛争地だった。イラク、アフガニスタン、パレスチナ、ルーマニア革命やグアテマラ内戦、フィリピン新人民軍の従軍取材......。現代戦争の実相は安倍晋三さんや岸田文雄さんよりは知っているつもりだ。ロシア兵やイスラエル兵から何度も銃を突きつけられた私の護身原則は非武装・無抵抗だ。侵略や弾圧に対しても非武装・非暴力を主張してきた。憲法9条を支持するからではなく、被害を最小にして生き延びたいとの功利主義からだ。

 しかし、尊厳ある死よりも卑屈でも生き延びる道を選べたのは、私が取材者で、裏庭への侵入者に愛する者を殺されるまでには追い込まれなかったからにすぎない。かつてのベトナム人民や今のウクライナ市民が武器を手に闘うか、占領下で非暴力ゼネストを選ぶかは抵抗する当事者が決めること。安全地帯の第三者による「双方とも停戦を」などの呼びかけは、おこがましい偽善と映る。私に言えるのは「侵略を止めろ」「武器供与をするな」までだ。(本田雅和)

▼「ネット上の支援システムを作ってほしい」と言われた時は、戸惑った。私は、販売合戦に明け暮れる新聞社で長く過ごしてきた。購読していただいた上に支援金までとは、ピンとこなかった。

 それが直接支援者にお目にかかり、読者会にお邪魔するうちに少しずつ実感がわいてきた。とにかくみなさん熱いのだ。世の中のありようを真剣に憂いているし、なんとかしなくてはという思いも強い。『週刊金曜日』への期待も高い。

 サポートのシステム作りを考えていると話すと、みなさん賛成してくれた。そして前向きな意見をたくさん出してくれた。クレジットカードを便利だと言う人も、いや嫌いだと言う人も、『週刊金曜日』を守るという思いは共通だった。

 それから約半年。4月14日に「週刊金曜日サポーターズ」がスタートした。支援のハードルを下げて、気軽に使えるシステムができたと自負している。同時に、『週刊金曜日』がたくさんの人の熱い思いに支えられているということを、肝に銘じている。(円谷英夫)