週刊金曜日 編集後記

1424号

▼今週号から安達茉莉子さんの連載「暗夜胸に手をおいて」が始まる。私が安達さんのことを知ったのは『エトセトラ VOL.1』(2019年5月発行)に載っていたイラストエッセイだ。かわいいクマのイラストと落ち着いた文章で、イギリス留学を通じて自身が「性」の抑圧から解放された話が描かれていた。この特徴的なクマのイラストには『私たちにはことばが必要だ フェミニストは黙らない』(タバブックス)の表紙で見覚えのある方も多いかもしれない。

 エッセイは柔らかさの中に確かさが感じられるものだった。「あなたはあなたの『性』を謳歌してほしい」という呼びかけに、とても励まされた。

「個人的なことが最も社会的なこと」。安達さんの『毛布 あなたをくるんでくれるもの』(玄光社)の中の一節だ。そして、彼女個人が自分自身の生活へのこだわりについて書いた『私の生活改善運動 THIS IS MY LIFE』(三輪舎)が今、多くの人の共感を呼んでいる。

 拳を振り上げるのではなく、胸に手をおいて確かな目線で語られる言葉が楽しみだ。(志水邦江)

▼今週号で齊藤小弥太さんの写真企画「土地の記憶」を掲載した。成田空港拡張のため消失の最中にある、先祖代々の土地に生きてきた人々とその営みとその風景の記録だ。5月28日まで東京・神田駅近くのTOKYO BRIGHT GALLERYで写真展が開催されている。

 4月に京都市のギャラリーヒルゲートで開催された豊田有希さんの写真展「あめつちのことづて」(本誌2022年9月16日号掲載)では、魚の販売を通じて山間地まで水俣病の影響が及んでいたことを知り、長期取材をして撮影した写真が展示された。山田しんさんの連載「祀りをたずねて」では、新潟県阿賀町平瀬の鍾馗祭りが18年のお祭りを最後に、その歴史に幕を下ろしたことを伝えた(4月7日号掲載)。そして4月28日号ではサハリンから韓国に永住帰国した残留朝鮮・韓国人の故郷村を取材した新田樹さんの写真企画「コヒャンマウル」を掲載した。

 すべて現在進行中の「高齢化」の記録だ。ついこの間まであった日常や風景が気がつけば消えていく。時を経て写真は過ぎ去った時代の普遍的な記憶となる。(本田政昭)

▼5月3日に東京・有明で行なわれた憲法集会の販売スペースに小社が4年ぶりに出店し、編集部員も数人参加した。表紙が坂本龍一さんの4月14日号を掲げて呼び込みをしていたら「表紙だけじゃなくて記事もあるの?」と聞かれ、「2ページですがあります」と答えご案内。この号は完売した後も「坂本さんの号は?」と聞く方が多く、その人気ぶりがうかがえた。

 読者の方から「(4月28日号の)河野洋平はこれを自分の息子に言えばいいのにね」「(同号の)尾辻かな子さんの維新の記事がよかった」などと感想をいただいたり、「どのサイズなら私入ると思う?」と聞く方とTシャツを選んだり。生の声が聞けるのはリアル会場ならではだ。何より、現地では憲法をないがしろにする悪政を正したいという熱気が充満していて体感温度が上昇。各ブースも賑わい、ミニイベントの議論も熱かった。

 有明会場の強風は、憲法への風当たりの強さのようだと毎回思っていたが、今回そうではないと思い直した。この強風は、武力行使を放棄した憲法に違反する軍事拡大政権を吹き飛ばそうという決意の結集に違いない。(宮本有紀)

▼さわやかな青空がひろがった5月3日の憲法記念日。『週刊金曜日』は東京・有明防災公園で開催された「2023憲法大集会」に販売ブースを出店しました。前回の参加はコロナ前だったので実に4年ぶりのこと。当日は編集長以下6人が強い海風にあおられながら、本誌やTシャツなどの販売に尽力しました。100冊持ち込んだ4月28日発売の憲法特集号は完売! そして坂本龍一さんが表紙を飾った4月14日号も50冊完売!一方、元首相の回顧録を特集した4月21日号は書店での販売実績が良かったため、多めに持ち込んでみたものの、売れ行きは芳しいものではありませんでした。

 晴天のなか、久しく味わうことのなかった心地よい達成感に加えて、たくさんの読者の方にお声がけをいただき、元気をもらった1日になりました。もちろん打ち上げのビールの味も格別です。

 さて今号の定期購読に同封しております「『週刊金曜日』新生活応援キャンペーン」のチラシですが、こちらも4年ぶりのご案内になります。どうか若い方に本誌を薦めていただければ幸いです。(町田明穂)