週刊金曜日 編集後記

1428号

▼関東大震災から100年の歴史と向き合う特集の連載を今号から始めることになった。震災の中で起きた6千人を超える朝鮮人らの虐殺について、史実そのものを否定する歴史修正主義者は論外としても、「天災」の中で起きてしまった「不幸な一つの出来事」との見方をしている人も少なくない。今号では朝鮮人虐殺の歴史的背景と史実の伝え方に焦点を当て、そうした認識を批判的に検証してきた論者2人に登場していただいた。

 新井勝紘、愼蒼宇両氏とも、虐殺が「軍官主導」であることは指摘しつつ民衆責任も厳しく問い、「官民一体」の犯罪行為として告発する。愼さんは、明治維新以来の日本の近代化とともにあった、朝鮮半島などへのアジア侵略と植民地支配の延長線上にあった必然的・象徴的事件と捉え、新井さんは「震災を語るときに避けては通れない本質」との認識を示す。

 日本と日本人が朝鮮と朝鮮人に何をしてきたかを考えるとき、アメリカ合州国における黒人差別やベトナム戦争を批判する視座も鍛え直される。(本田雅和)

▼5月に広島市で開かれた主要7カ国首脳会議(G7サミット)では、G7首脳が原爆資料館を訪問した。核保有国への配慮から、館内をどう回り、どんな反応だったか公表されなかった。複数の報道によると、19日の訪問では本館でなく東館を見学し、本館の資料の一部を東館に運んで見せたという。

「結局その程度? 本館を見せないでどうするんだ」というのが私の印象。原爆資料館が2019年に改装された後、私は3回訪れた。東館には被爆前後の爆心地の写真や核兵器の危険性の解説、広島市の歩みなどを展示しているが、被爆者が受けた苦しみ、悲しみを伝えるのは本館だ。建物疎開作業中に被爆した学生たちの衣服などの遺品、熱線や放射線被害の実態、原爆孤児らの戦後の苦難――。

 米国側はバイデン大統領の資料館見学に際して神経をとがらせ、日本側にかなり注文を付けていたという。調整の末、刺激が強い本館見学をあえて避けたということなのか。岸田文雄首相はサミットの成果を強調したが、どこかズレていると思ってしまう。(小川直樹)

▼今週号で梅谷隆介さんの写真企画「オートマタ」を掲載した。6月25日まで東京・神田駅近くのTOKYO BRIGHT GALLERYで〈「外国人」になりたくて渡韓してみたが、結局は自分らしさの不足を痛感した〉ことをテーマとした写真展「BE A FOREIGNER, TO BE A HANDSOME GUY?」が開催されている(本誌はモノクロの掲載ですが、写真展はカラーです)。

 実は、写真展が先に決まっていたのですが、梅谷さんとの会話の中で「AI(人工知能)が撮影した写真が写真展で総合優勝した」話が面白く、AIで制作された作品について、(ある意味)批評的な掲載ができないだろうかと提案をし、写真展と本誌でコラボレーションすることにしました。サブタイトルの「AIは電気羊の夢を撮れるか?」は、フィリップ・K・ディックの名作『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』(ハヤカワ文庫)をリスペクトしたものです。

 気がつけば現代社会の中で、AIなしには人々の暮らしが成り立たなくなるような時代が来るのではないだろうか? ていうか、もう来てるか?(本田政昭)

▼久しぶりに開いた長男猫の名前を冠した会に映画『たまねこ、たまびと』の村上浩康監督が来られ、多摩川河川敷の猫たち、そしてホームレスの方たちの話をいろいろうかがいました。

 2019年10月の台風19号で、数百匹の猫たちが濁流に呑まれ姿を消したことは、多摩猫たちを30年以上支援している写真家の小西修さんから聞いていましたが、「それだけじゃないんです」と村上監督。多摩川上流の小河内ダム(東京都奥多摩町)が決壊しないように、たまった余分な水を吐き出す放流により土砂が下流に押し寄せ、「干潟のシジミやカニが全部やられて、今もとれなくなっています」。台風19号のときの放流は、多摩川の生態系を完全に壊してしまったようです。

 河川敷で暮らす91歳のホームレスの方のエピソードを聞いて、「それだけで一つの映画になりますね」と言ったのは、同席した無名塾の俳優。刺激的な情報交換の会となりました。『たまねこ、たまびと』、7月は新潟の「シネ・ウインド」、大分の「シネマ5」ほかで上映予定です。(秋山晴康)