週刊金曜日 編集後記

1431号

▼特集内インタビューでは一部しか掲載していないが、寺原真希子弁護士のDV家庭の経験は壮絶だった。「全部書いてもらってかまわない」と淡々と話されたが、どれほどの苦難だったかと思う。

 DV防止法のなかった当時、父親の暴行がひどくて警察に駆け込んでも「民事不介入だから」と助けてもらえなかった。離婚してと言おうものなら暴力はひどくなる。母親が着の身着のまま逃げても、当時は夫が妻の居所を問えば役所も教えてしまい、見つかってさらに暴力を振るわれたという。離婚できたのはDV防止法の成立後。だから、社会の実態にあわせた法整備の必要性・重要性を身に染みて感じておられるのだと思う。

 制度がないということは、困っている人がそこにいないものとして見捨てるのと同じことだ。同性婚制度も、自分は当事者ではないから関係ない、のではない。法整備がないことで苦しむ人がいる社会の姿勢はすべての人に影響する。自分の存在は制度に否定されていると感じる人がいる社会は誰にとっても息苦しい。どうか他人事と思わないでほしい。(宮本有紀)

▼「#マイナンバーカード返納運動」がツイッターでトレンド入りしている。マイナンバーカードと健康保険証の一体化などを盛り込んだ「マイナンバー法改正案」が6月に可決・成立してしまったが、マイナンバーをめぐる「トラブル」は枚挙にいとまがない。6月30日付『東京新聞』は、「総務省の担当者は3月29日の参院地方創生・デジタル特別委員会で、返納を含め所有者の希望で失効したマイナカードの枚数を約42万枚(3月3日時点)と答えた。直近の返納数については『把握していない』と説明する」が、「政府関係者は『直近の返納数は増えている』とみる」と報道しており、「返納は住民票がある自治体で受け付け、規定の書類に住所や氏名、返納理由などを記入してカードとともに提出する。返納しても改めて取得することができる」と説明も載せていた。

 マイナンバーカードの普及が進めば今後さらに、「利用範囲の拡大」が行なわれ、監視社会が強化され、犯罪の温床にもなっていく。今からでも、マイナンバーカードの放棄を。(渡部睦美)

▼発がん性の疑いがある有機フッ素化合物(PFAS)で地下水が汚染されている問題で、読者から「どうしたらよいのか」との問い合わせがあったと聞きました。

 私の家では、容量2リットルのペットボトルに、小さじ1杯分のヤシガラ活性炭を入れ、水道水で満たして、24時間後から使っています。活性炭には、水中の有害物質や臭気物質等を吸着・除去する効果があります。いわば、お手製の「浄水器」ですが、カートリッジの交換が不要のため、ゴミが少なく、環境に優しいと思います。

 水道水には、国の基準を上回るほどの危険なPFASは含まれていないはずですが、少量でもご心配ならばお住まいの自治体に問い合わせるとともに、「浄水」を試されてはいかがでしょうか。

 PFASの一種、PFOA汚染を追った中川七海さん(Tansa)連載が、第12回日本ジャーナリスト協会賞にノミネートされました。現在のTansa連載に関係する『いじめの聖域』(石川陽一著)もノミネートされています。結果をご注目ください。(伊田浩之)

▼6月は「夏越の大祓」の季節だ。多くの神社で、しめ縄を張った結界内に茅で編んだ直径数メートルほどの輪を建てて「茅の輪くぐり」が行なわれる。1年のちょうど真ん中あたりの節目の季節感を感じる行事だ。先日、病院に立ち寄ったおり、近くの杵築大社を訪れたら鳥居の前に立派な「茅の輪」が設置されていた。せっかくなので横に記された解説を読みながら、正面から最初に左回り、次に右回り、ふたたび左回りと茅の輪をくぐった。

 その日は、阿佐ヶ谷神明宮でも半年間の罪・穢れを祓う「夏越の大祓」が斎行された。年に2回だけ(普段は入れない)奥の本殿前に一般の人も入れる特別な日だ。やはり大いなるチカラのようなものは"在る"のではなかろうか。凜とした空気の中で思う。

 先日、本誌の表紙イラストを描いたこともある奥勝實さんの訃報を知った。僕と同い年だ。共通の知人の三人展をやっていた恵比寿のギャラリーまぁるを訪れ、オーナーと奥勝實の思い出話をした。ささやかな追悼だが、彼もその場にいるような気がした。(本田政昭)