週刊金曜日 編集後記

1433号

▼高麗博物館で開催中の企画展「関東大震災100年―隠蔽された朝鮮人虐殺」を見に行った。「レイシズム行為のピラミッド」という展示パネルが印象に残った。「偏見」「差別」から「暴力」へとエスカレートし、頂点で「虐殺」に至る三角形の図だ。「暴力」の例として、チマチョゴリ引き裂き事件や京都・ウトロ地区の放火事件などが挙げられていた。「虐殺」の実例は「関東大震災朝鮮人虐殺」だ。

「虐殺」は遠い国の出来事と思いがちだが、実は日常の延長線上にあるとの戒めだと受け止めた。「日ごろの差別意識を背景に『何かあったら日本人に危害を加えるだろう。やられる前にやってしまえ』。そんな思い込みがあったのでは」と、展示にかかわった理事は話していた。

「偏見」「差別」「暴力」から「虐殺」までが地続きならば、心配の種は今も絶えない。ウトロ地区の放火事件はつい2年前の出来事だ。関東大震災100年の教訓を無駄にはしたくない。(平畑玄洋)

▼私事ではありますが、8月15日に退社することになりました。

 入社したのは、日本でコロナ禍が始まったころの2020年2月。植村隆さん(今の社長・発行人)の裁判支援を一緒にやっていた文聖姫さん(今の編集長)と打ち合わせを兼ねてご飯を食べていたら「だれか投書のページの編集をできる人、知りませんか」と聞かれたので、「僕がやろうか」と応えたのが、きっかけでした。

『週刊金曜日』には記事を書いたことはあったけれど、どのような会社かはほとんど知らなかったので入ってからは驚くことばかり。

 創刊からずっと投書のページは「投書」という名前。「これじゃあんまり......」と考えて、おそるおそる「言葉の広場」と「論考」という名前を提案したらすんなり承認されたのにも驚きました。

 投稿の編集を通じて多くの人と出会い、親しくなりました。一番の財産です。ありがとうございました。(佐藤和雄)

▼札幌のラブホテルで頭部のない62歳の男の遺体が見つかり、首から上は、つば広帽子の女性らしき人物が持ち去ったとか。テレ朝の「モーニングショー」ではタマカワさんが「阿部定事件」を思い出すと言っていたが、どうせ「愛の幻想」を語るなら、オスカー・ワイルドの戯曲『サロメ』だろう。

 オペラ、映画、絵画、古今数多の芸術作品に描かれたサロメはユダヤの王女。嫌な継父の王の前でダンスを踊らされ、褒美に所望したのは片思いした預言者ヨカナーンの首。銀の皿に載ってきた彼の頭、血塗られた唇に口づけする。

 少年時代、母の部屋に忍び込んだ私は書棚からワイルドの本を見つけた。ビアズリーの耽美的な挿絵を開いたときの鼓動の高鳴りは忘れえない。アイルランド生まれのワイルドはこの本を仏語で書き、同性の恋人に英訳させたが、不出来に怒った。好きな人に首をかき切られるほど愛されたいとの衝動は、今よりも少年の僕の方が理解していたと思う。(本田雅和)

▼先週号に、「週刊金曜日サポーターズ」のチラシを、同封させていただいた。これまでに2回お知らせを掲載したが、まだまだみなさんに認知していただいたとは言いがたい。これまで郵便振替を使った支援金をお願いしてきた一方で、今回作ったシステムはネットのクレジット決済ということが、わかりづらさにつながっている。今回のチラシでご理解いただけたのではないかと、期待している。

 さて、サポートシステムでは、創刊6年のTansaが兄貴分だ。今回の導入にあたり、大変親切に構築のいきさつや、運営の苦労話を聞かせていただいた。リポーター自ら取材の傍ら事務局作業をされており、頭が下がる思いだ。

 最新活動案内によれば、マンスリーサポーターは約380人だという。う~ん、すごい。金曜日はまだその約1割だ。でも私たちは誕生4カ月目のヨチヨチ歩き。6年後にはそれに近い水準になるように頑張りたい。(円谷英夫)