週刊金曜日 編集後記

1436号

▼台風7号の影響が気になる。6号は沖縄本島で多くの死傷者を出した。被害に遭われた方々には心からお見舞いを申し上げたい。県内全世帯の3割以上が停電したというからその暴威は想像しがたい。

 毎月「肯わぬ者からの手紙」で健筆を揮われている山口泉さんは沖縄在住で、今週号の締め切りがちょうど台風6号と重なった。停電のため入稿が遅れるかもしれないという連絡を前夜いただいていたし、正直、原稿どころではない状況だろうと思っていた。だが翌日、山口さんはネット環境が使えるご友人宅で無事に原稿を送ってくださった。有り難かった。倒木に阻まれ家から車を出せなくなっていたところを、友人の方が迎えに駆けつけてくれたときく。

 原稿授受はメールがほとんどで、受けとる方はその便利さに慣れてしまっている。だが、最後は届けようとする人の意思だと今回強く感じた。(小林和子)

▼関東大震災100年の特集を担当している。関東各地に残る「痕跡の地」に足を運び、文献を数多く読んできた。とくに参考になった本が吉村昭氏の『関東大震災』(文春文庫)だ。

 吉村氏の著作は『三陸海岸大津波』『長英逃亡』『陸奥爆沈』などを愛読している。東京都荒川区の「ゆいの森あらかわ」内にある吉村昭記念文学館にも足を運んだ。

 この『関東大震災』も何度も読んだが、改めて読み返した。地震を予知した学者・今村明恒の話から始まり、地震の被害、朝鮮人虐殺、大杉栄殺害事件、遺体処理、復興など詳細に記述しており、吉村氏の取材力、筆力に驚かされる。

 吉村氏がこの本を書いた1973年当時、地震を体験した人は多く生きており、直接聞き取った証言も盛り込まれた。その意味では今ではもう書けない、貴重な記録だ。金曜日読者のみなさんにもぜひお薦めしたい一冊だ。(小川直樹)

▼「喜んで中絶する女性はいません。中絶の悲劇を確信するには、女性に聞けば十分です」。1974年、カトリックの男性議員が多数派のフランス国会でそう演説して人工妊娠中絶を合法化、危険な闇手術による犠牲者を救済する法案を成立させた保健大臣シモーヌ・ヴェイユ――その生涯を追った映画『シモーヌ』が、評判だ。

 移民やエイズ患者、囚人の人権をいかに保障するかで闘い続けた彼女の原点は、アウシュビッツでの壮絶な体験にあった。第二次大戦後、レジスタンスの闘士たちが英雄的評価を受ける一方、生還者の女性に対しては「ナチス親衛隊と寝て生き延びたのか」という誹謗中傷まであった。右翼の男たちによるシモーヌへの攻撃では、アルジェリアに対する露骨な植民地主義の発露も描かれていたが、同時期にアジアで展開していた仏軍によるベトナム人民の大虐殺への言及はなかった。(本田雅和)

▼のどに違和感があり、せきも多少出るので耳鼻咽喉科を受診。待合室で体温を測るとなんと38度2分。すぐに別室で待機、しばらくしたら外に出て小さな建物に入るように指示があった。シート越しに防護服着用の医師が診察。検査の結果、新型コロナウイルス陽性が判明したので薬を処方された。「発症後5日を経過し、かつ症状が軽快した後1日を経過するまで出勤停止」だそうだ。その間の業務はリモートで何とかこなした。

 まるで、もうコロナは終わったかのようだ。以前より情報も少なく不安になる。私は運良く病院で検査して診察してもらえたが、妻が某病院に問い合わせたら予約でいっぱい、まずは自分で検査するようすすめられたそうだ。規制は撤廃するのでご自由に、その代わり感染したら自力で治してねってか。いつの間にか自己負担、自己責任になっていた。今さらだが、この国は、終わった。(原口広矢)