週刊金曜日 編集後記

1443号

▼マルクスの『資本論』は名高い名著ですが、全3巻をすべて読むのは困難です。長くて難しいからです。私も、学生時代から入門書や解説書を読んできましたが、理解が難しい。『資本論』の記述に沿って説明するのではなく、筆者の解釈を述べている本が多いのが理由だと最近気づきました。

 9月25日発売の『資本論を読破する』(鎌倉孝夫・佐藤優著。文藝春秋)は、『資本論』全3巻を踏まえたうえで、資本主義システムの基本構造をできる限り論理整合的に記述しています。扱う範囲は第1巻。大部(712ページ)で高価(税込み7700円)ですが、『資本論』からのていねいな引用や解説で、良質なガイドブックとなっています。この本の基になったのは、『週刊金曜日』主催の資本論講座全18回(1回90分)です。そのご縁で、私も少しお手伝いをさせていただきました。

 格差の拡大や貧困、気候危機、パンデミックなど、資本主義のせいで私たちの暮らしが破壊されています。資本主義を問い直すために同書を薦めます。(伊田浩之)

▼「えっ」と我が耳を疑った。NHKのラジオニュースだった。早速、同局のニュースウェブで確認。《中国との関係を強めている南太平洋の島国、ソロモン諸島のソガバレ首相が国連総会で演説し、福島第一原発にたまる処理水の海洋放出について、「がく然としている」と批判》と活字になっている。冒頭の枕詞は聞き手に偏見と予断を与える表現で、"国営放送"の原稿じゃないのか。

 先週号で紹介した新版『森と魚と激戦地』(清水靖子著)に、1980年代、原発から出る低レベル放射性廃棄物をドラム缶に詰めて太平洋に投棄する計画を日本政府が画策していた経緯が書かれている。82年7月、太平洋首脳会議席上で、原子力安全局後藤宏氏による発言が出てくる。「中川(一郎)科学技術庁長官は日ごろ次のように言っておられます。『放射性廃棄物のドラム缶にキスしても、抱きついても、その脇にベッドを置いても大丈夫なほど安全に処理されています』」。いまの同局ならどんなふうに扱うのだろうと考えた。(小林和子)

▼9月20日、東京・武蔵野市は、有害性が指摘されている化学物質を含むPFASへの対策として、国の暫定的な目標値を上回る数値が検出されたことから市内の小中学校の災害用の井戸すべてに、浄水器を新たに設置することを、開会中の市議会に関連費用を盛り込んだ補正予算案を提出し本会議で可決した。

 本誌5月26日号で、植田武智さんによる特集「PFASが水を汚す」で、東京・多摩地域の住民の血液検査の中間報告が掲載されている。水汚染の実態がこれほど酷いことになっていることに、静かな衝撃を受けた。

 9月22日、水汚染に詳しい諸永裕司さんが本誌共催の「金曜ジャーナリズム塾」に登壇するとのことなので聞きにいった。資料として指定された『消された水汚染
「永遠の化学物質」PFOS・PFOAの死角』(諸永裕司著、平凡社新書)を読み、〈見えざる汚染源を追跡する過程で露わになったこの国の姿〉に驚愕。当日の講義は10月27日号の「金曜ジャーナリズム塾」で掲載の予定。(本田政昭)

▼私はプロ野球通だと自認している。往年の名選手の活躍や過去の名勝負は詳しい。だからこそ声を大にして言いたい。「日本野球機構さん、クライマックスシリーズ(CS)はもうやめましょう」と。

 今年は阪神とオリックスが独走でリーグ優勝した。しかしCSの結果次第では日本シリーズで両チームの対決が見られない可能性がある。1位と10ゲーム以上も離されたチームが日本シリーズに出たとしても、今年の最高峰の決戦と呼べるだろうか。制度やルールに則るとはいえ、選手やファンは「ウチが日本一!」と心底から喜べるだろうか。

 過去にリーグ優勝できなかったチームがCSを勝ち進み、日本シリーズを制して「下克上」ともてはやされた例は何度かある。CSは興行として儲かるのだろうが、「下克上」と称して、勝負の結果をゆがめ、リーグ優勝の価値を落としてはいけない。

 今年のCSは10月14日から始まる。もし阪神が日本シリーズに進めなかったら......。熱い阪神ファンは怒るで。(小川直樹)