週刊金曜日 編集後記

1445号

▼日本政府もマスコミもハマースの「奇襲」ばかりを問題にしているが、今号の早尾貴紀氏の論考を読めば歴史認識なき論評がいかに危ういか理解いただけると思う。

 10月12日、イスラエルのG・コーヘン駐日大使の記者会見に出た私は、『朝日新聞』記者時代にジェニーンを含めたパレスチナ西岸や高い塀が造られる前のガザに何度も入り、国際法違反の占領と入植政策に基づいた非戦闘員の殺戮を目撃してきたことを説明。「ハマースを殲滅したらガザの抵抗はなくなるとお考えか? イスラエルの目的は倍返しによる殲滅なのか?」と質した。

 大使は「同意できない」とパレスチナ人に対する虐殺の事実を否定。「それはハマースが一般人を『人間の盾』にしたからだ。われわれは米国を仲介としたオスロ合意などでパレスチナといい関係を築こうとしたが、その見返りがテロだった」と述べた。(本田雅和)

▼今号の東京都立学校教員・元教員座談会に出席した大能清子さんは、今月出版された『国際人権から考える「日の丸・君が代」の強制 セアート勧告と自由権勧告』(「日の丸・君が代」ILO/ユネスコ勧告実施市民会議編、同時代社)でも、「10・23通達」以降、とくに若い教員に重圧がのしかかっていると、次のように書く。

「日々の教育は"するもの"から"やらされるもの"へと変わり、うつ病などのメンタルヘルスで休職する教員が激増。教員採用試験の倍率は昨年は二・一倍と最低記録を更新。教職が不人気なのは、やりがいを奪われたことが一番大きいのではないか」(要旨)

 一方、昨年度の不登校の小中学生は、過去最多の約29万9000人(文部科学省調査)。東京から全国へ、教員から子どもへと、かえられた教育の有り様はこの20年間さまざまな影響を及ぼしているに違いない。(吉田亮子)

▼今週号のにのみやさをりさんの写真手記「なぜ、性暴力被害者が加害者と対話を続けるのか」では、写文集『SAWORI』(2015年)からの写真を掲載した。早坂類さんによる言葉と、にのみやさをりさんによるセルフポートレートによって構成されたこの本は(現在、紙の本の入手は困難。再版の予定は今のところなし。Kindleでの販売あり)性暴力被害者としての自分を、その時点で総括するための試みとしてまとめられたように感じる。手に取った読者一人ひとりがそれぞれに感じ、考える、きっかけとなる作品だと思う。

 今週号に掲載した手記には、「性暴力被害」によって被った傷の痛みは、生きている間中、永遠に続くものであると記されている。最近のマスコミ報道でも「性暴力被害」が大きく注目されているが、心の痛みを引き受けながら生きている人が数多くいることを、改めて考えさせられる。(本田政昭)

▼今号では、にのみやさをりさんの「なぜ、性暴力被害者が加害者と対話を続けるのか」という手記を掲載しています。にのみやさんと斉藤章佳さんの対談では、「人間であることを木っ端微塵にされた被害者の『その後』を知ってほしい」という切実な思いが吐露されています。

 にのみやさんとは、私の大学時代の先輩小林茂さんが知人同士というご縁があります。2011年のにのみやさんの本誌連載「声を聴かせて」を読んだ小林さんが、『金曜日』を介してにのみやさんに連絡したのが始まりだそうです。

 性被害問題では、いまジャニー喜多川氏のことがクローズアップされています。今号の「言葉の広場」は、4人の読者の「ジャニーズ考」を掲載しました。

 11月の「言葉の広場」のテーマは10月に引き続き「私と『週刊金曜日』」です。ご投稿をお待ちしています。(秋山晴康)