週刊金曜日 編集後記

1449号

▼数年前、取材先でよく顔をあわせていた有能な全国紙記者が会社に理不尽な対応をされて辞め、メディア業界からも去ってしまった時は愕然とした。業界の損失だし、日本社会の損失だと思った。

 民主主義を支える報道機関の役割を十分認識し、その行く末を憂いながら辞めていく記者が増えている。本誌に新旧新聞労連委員長対談などで登場してくださった吉永磨美さんと南彰さんが退社されると聞いたときは、やはりという気持ちと残念な思いが交錯した。

 お二人も登場してくださった今週号の特集で複数の方が指摘したのは、「報道とは情報を与えてもらうのではなく自ら掘り起こすもの」「記事の判断基準は数字がとれるかどうかではなく、伝えるべきことかどうか」「権力側ではなく弱者の側に立つべき」という当たり前のこと。現状はその機能を果たせていないようで残念だが、既存メディアができないなら自分たちでやればいいという発想と行動が生まれていることに希望を見出す。きっと、もうすぐ新しいメディアの時代が来る。(宮本有紀)

▼11月10日号で、日本では昨年公開されたドキュメンタリー『ガザ 素顔の日常』の緊急再上映(https://unitedpeople.jp/gaza/scr)を取り上げたが、こちらも昨年公開の土井敏邦監督『愛国の告白 沈黙を破る・Part2』が全国で緊急再上映となった(http://doi-toshikuni.net/j/aikoku/#msg)。

『愛国の告白』に登場するのは、パレスチナで「怪物になってしまった」経験を写真や講演を通して証言するNGO「沈黙を破る」の元イスラエル兵の若者たちだ(2021年12月24日号掲載)。土井さんは1985年以来、現地に通い続けるジャーナリスト。『届かぬ声 パレスチナ・占領と生きる人びと』など多くの作品がある。

 12月17日(日)13時半からは、緊急報告会「ガザはどうなるのか?」を東京・日比谷図書文化館コンベンションホールで行なう。2014年の攻撃・破壊後、ガザ住民に何が起きたのかを追った『破壊のあとで』を初公開。参加費は1000円など。申し込みは「土井敏邦 パレスチナ記録の会」(doitoshikuni@mail.goo.ne.jp)まで。(吉田亮子)

▼本誌11月3日号の鈴木宗男・参議院議員へのインタビュー記事を読むほどに不信感を強くした。編集部の同僚が聞き手だけに、発行後に批判することの不明をわびたいが、言論・報道機関として多事争論は社是でもある。主見出しの「日本政府には自立した外交が必要」との主張には、米国追従の日本の現状を批判する人の多くにも異論はなかろうが、それはロシアに行ってその代弁人になることとは違う。今回のウクライナ全面戦争が「ロシアによる武力侵攻で始まった」ことは歴史的事実だ。「米欧や西側諸国がロシアを追い込んだ」との分析も別に新たな知見ではなく、背景説明と解釈であり、それでも国際法上も他国侵略や先制攻撃の正当化はできない。

 大国が小国を侵略し、抵抗されると「ウクライナの勝利がありえますか」などと既成事実にした占領の承認を力で迫る。ロシアのプロパガンダそのものだ。私は同じ号でベトナム戦争の検証を始めた。本誌創刊者の本多勝一は『殺される側の論理』で、鈴木氏が言うような「けんか両成敗」論の欺瞞を鋭く批判している。(本田雅和)

▼「渡辺さんは姿勢が悪いんですよ」。あちこちガタがくるお年頃、昨年ちょっと決定的なことがあって通っている整形外科のリハビリで、毎回こう言われます。首や肩や腰の不調は姿勢の悪さに起因しているということで、自分でも気をつけているつもりなんですが、理学療法士さんから見るとまだまだ全然......らしいです。で、毎回正しい姿勢をレクチャーしてくれるのですが、その場ではわかっても、一歩病院の外に出るとわからなくなってしまうんですね。ああ、「姿勢矯正ギプス」がほしい。

 はたからは欠点がわかっても、自分ではわからない――というのはよくあることで、来年6月に所得減税をやるとのことですが、いや、違うでしょ、やるべきはそこじゃないでしょと指摘されても、聞いているんだか、いないんだか。トップになったら自分の好きにやっていいと思っているとしたら、それは間違い。上に立つ人間は、まわりの声に耳を傾けなくなったら終わりだと思うので、日本国首相には「姿勢矯正ギプス」をプレゼントしたいです。(渡辺妙子)