週刊金曜日 編集後記

1452号

▼「赦す」とはどういうことか? 11月3日号で報告したソンミ虐殺事件のことを考え続けている。家族を殺されて一人ぼっちになったバア少年が「アメリカ人を見たら殺したいと憎んだ」のはわかる。理不尽なのは、米国も米国人も総体として戦争責任から免れ、その後も世界中で同じことを繰り返しているのに、一方の被害者の心の傷は癒えることなく、今も頭をもたげる復讐心や憎悪と闘わねばならないことだ。戦争にも虐殺にも加害者と被害者がいることは曖昧にしてはならない。被害者は抗議・告発し、赦すこともできるという倫理的には優位者だが、憎み続けることはバア少年が言うように「つらく惨め」でさえある。しかし、赦すことができたら、本当に苦しみから解放されるのか?

 一方の加害者やその子孫、加害国の「国民」はどうなのか? 世界戦争を推し進める米国同盟の政府を変えることさえ、私たちにはできていない。市民としてベトナム戦争には反対してきたことや憲法9条から停戦を訴えることも、バア少年らには癒やしにさえならないのではないか。(本田雅和)

▼先日、書類を整理していたら、ちょうど昨年の今頃に作成していた表紙案がでてきた。2023年の卯年に向けてうさぎを使ったもので、3羽が並んで横を向いた写真に「次は誰かな」という大タイトルをつけたものと、吹雪にうもれたうさぎの写真に「生活が寒すぎる」という大タイトルをつけたものだ。

「次は誰かな」というのは、昨年10月~11月、岸田文雄内閣で3閣僚が辞任して「辞任ドミノ」が起きていたことを揶揄したもの。どちらの表紙案も使わなかったものの、うさぎの写真が可愛かったので捨てないでとっておいたのだが、1年経っても状況が変わらないどころか、不祥事で辞任ドミノが起きているところまで同じなことにあきれる。

「生活が寒すぎる」案には「節電・節約はもう限界 防衛費上げる余裕はない」というフレーズをつけていた。これも現状は変わらないどころか悪化していて庶民の生活はますます苦しくなっている。政治が寒い。自公政治は寒すぎる。あたたかい政治にするためには今の政権から脱しなければ。凍えている場合じゃない。(宮本有紀)

▼しばらく前に、旧連載「死を忘るるなかれ」に登場していただいた訪問診療医・小堀鷗一郎さんから近況報告のメールが届いた(小堀さんの記事は2020年12月25日/21年1月1日合併号掲載)。

 そこには共同通信社が今夏3カ月間にわたり小堀さんを密着取材した後、全国地方紙に配信した記事に添付した8分20秒の動画(「死を生きる」ということ 85歳の訪問診療医・小堀鷗一郎)のリンクが記されていた。

https://youtu.be/TCtmsI45gqk

 世界一の長寿国に暮らすこの国の人々は生と死をどのように考えているのだろう。最期の日々に正解はない。「病院ではなく自宅で死を迎える」という選択をする人々がいる。映像は小堀さんの訪問診療の日々を淡々と捉えていく。

「意にかなった医療をやる」

「僕は寄り添うという言葉も癒やしも嫌いだから使わないけども」

 心に沁みる言葉だ。

 小堀さんは『一冊の本』(朝日新聞出版)で「人それぞれの老いと死」を連載していた(10月号で終了)。4月号と7月号の黒岩卓夫さんとの対談では「死を生きる」ことが深く語られている。(本田政昭)

▼2010年7月から5年間、定期購読の配送をヤマト運輸に委託していた。遅配のたびに支店に問い合わせの電話を入れるのだがその最中、クレームなのか? 受話器を通して別の電話口での困惑した対応を耳にすることがあり、過酷な労働現場に思いを馳せた。そしてその後、「未払い残業代」問題が発覚。勤務時間を上司が改竄するなど、優良企業のイメージに反した実態に落胆した。それでも同社は「働き方改革」を掲げ、環境整備に努めていると思っていたのだが、現役のドライバー社員に話を聞くと「当時、労働環境の改善を社内外に約束したが、今さらに悪化している。人手不足なのにAmazonのセールで荷量は多い。休憩時間に荷物を仕分けするので、ろくに昼食もとれない。そうしないと配達が遅れて負担は増すばかり。それを管理者は見て見ぬふりするだけ」と吐き捨てる。

 先週号で「ヤマト運輸配達員の契約打ち切り」を取り上げたが、従業員をコストではかる企業に希望はない。いうまでもなく人材は財産であり、それに投資をして生かすのが経営だろう。(町田明穂)