週刊金曜日 編集後記

1469号

▼「スイートホーム渋谷」を撮影した吉村輝幸さんとの出会いは、今村守之さんと組んだ連載「死を忘るるなかれ」の取材だった。1回目に登場した横尾忠則さんのアトリエに向かう道すがら、自己紹介もかね、スマホでそれまで撮った写真を見せてくれた。ロンドンでの活動後、今は東京でファッション関係の撮影をしているという。

 吉村さんは月に一度、渋谷のバーで複数のDJと、テーマを決めて音楽イベントを開催している。同時に店の壁に写真を貼って、即興で写真展を開いたりもする。今回撮影された人々の写真は現在の街の記録として、歴史の経過とともに普遍性を帯びていくだろう。

 渋谷といえば、近くの神宮外苑再開発伐採問題も気がかりだ。スクラップ・アンド・ビルドは(震災対策も含め)都市の歴史的必然だが、目先の経済的利益のために、再開発で貴重な公共の樹木を犠牲にすべきではない。(本田政昭)

▼「過去に目を閉ざす者は現在にも盲目となる」。ワイツゼッカー元ドイツ大統領の残した言葉はよく知られている。ホロコーストの罪について積極的に学ぶドイツの歴史・人権教育は見習うべき対象とされてきた。だが、今号の駒林歩美さんの現地報告を読むと、パレスチナ問題に関しては様相を異にしているようだ。駒林さんは「民主主義や人権を強調してきたドイツのアイデンティティは表面的なものでしかなかった」と言う。

 ドイツでは、外国人の国籍取得要件にイスラエル国家の存在を認めるという項目を盛り込む州まで現れた。連邦議会でも、パレスチナに連帯を示して刑法違反に問われた外国人の滞在許可を剥奪し、イスラエルの存在を認めない外国人の国籍取得を拒否できる法案が審議されているという。行き過ぎたイスラエル寄りの姿勢が多くの矛盾を生んでいる。(平畑玄洋)

▼好きな人と一緒に暮らすことは人としての本質で当然のことだ。自らが組み込まれている国家という幻想共同体を支配する権力者に個人の関係を届け出たり、承認を受けたりすることは次元の違う別問題だ。生きる上でやむなく結婚制度の方便に従う者も、自ら喜んでその道を選択する人もいる。

 国家権力は婚姻関係の承認で法律婚を「正当」かつ「正統」として福祉優遇などで特権を与え、管理支配を強化。結婚イデオロギーは、日本特有の戸籍という家父長制を背景に私の愛のあり方まで規制する差別制度に現出している。

「非婚」を含めた自由な生き方への抑圧だという国家賠償裁判と出合って2年余。室田康子という優れたライターを得て、本誌先週号にようやく「富澤由子の闘い」を掲載できた。人らしく自由に生きることを許さない社会は多様性を認めぬ酷い社会だ。(本田雅和)

▼薬は苦手だ。サプリはもっと苦手。もちろんお世話になることもある。肩関節炎のときは胃薬の処方をうけた。「(作用機序は)よくわからないけど、臨床的に効く」と医師がいうのでのんでみた。確かに効いた(気がした)。でも、痛みが特にひどいときだけ。高い薬をのむより、栄養のあるおいしいものを食べたほうがいいと考えるからだ(ただの食いしん坊?)。

 小林製薬の「紅麹」サプリメントによる健康被害の報道は、驚くと同時に「やはり」という思いもあった。2015年、機能性表示食品の解禁時に本誌特集で警鐘を鳴らしていたからだ(4月17日号、5月29日号、9月4日号/別の部員が担当)。健康食品の歴史は「健康被害の歴史でもある」。機能性表示食品は「安倍首相が掲げる成長戦略の一つだが、制度の抜本的見直しが必要」と訴えていた。その主張は届かなかったが、同じ過ちを繰り返してはいけない。
(小林和子)