1470号
2024年04月26日
▼昨年、「さらん日記」作者の西岡由香さんが来京された時、一緒に靖国神社の見学をした。境内にある遊就館は「太平洋戦争はアジア解放のための戦争」史観に貫かれ、最も格式の高いとされる部屋に教育勅語と軍人勅諭を恭しく奉る。
戦勝記録は大々的に展示するが、広島・長崎の原爆投下などはわずかな記述しかなく、西岡さんは大憤慨。また、占領政策を「新憲法や教育基本法の制定などで、日本の弱体化を図った」と記述する日本国憲法への否定的な姿勢も西岡さんを怒らせ、「いつか漫画に描いてやる~」と握り拳を作っておられた。この体験が、今週号の対談へと結びついた。
対談にでてくる『あたらしい憲法のはなし』は復刻版を童話屋が刊行しており、そのまえがきには「民主主義と国際平和主義が、この小さな地球の上で人類が生き残ることのできる唯一の道」とある。世界中が戦争の影響を受けている今、それを実感する。日本国憲法は理想であると同時に、「現実路線」でもあるのだ。(宮本有紀)
▼4月から本格的に、学生時代からなじみ深い『週刊金曜日』の編集部員として働きだしたが、学生時代を思い出し、感慨深い。金曜日編集委員の元『朝日新聞』記者の本多勝一氏の講演会に、著書『戦場の村』(朝日新聞出版)を携えて参加。「本多記者の近くで働いてみたい。いつか実現させるぞ」と、ジャーナリストを志した。28年前の私の想いは実現したのだ。
ほどなく『毎日新聞』記者となった。2020年から新聞労連の専従役員の2年を経て、その後会社に戻ったが、昨年7月に退社した。
本誌は30年前、本多氏、筑紫哲也氏といった人たちが、大メディアの限界を打破しようと、ジャーナリズムの金字塔として作った雑誌として世の中で注目された。
あれからメディアは変わったのか? 現在も硬直的な状況は変わらず、限界を感じ離職者が後を絶たない。「生活ニュースコモンズ」など、大メディアの記者やディレクターが限界を打破するため、新メディアを生み出す動きがあるが、本誌の草創期と重なる。何ができるか、考えていきたい。(吉永磨美)
▼いつだったか、本欄で作家の吉村昭氏(1927~2006年)の『関東大震災』がこの災害を知る上でお薦めだと書いたことがあった。吉村氏の作品は『戦艦武蔵』『三陸海岸大津波』など、よく知られた作品のほかにも、『背中の勲章』『北天の星』『帰艦セズ』『仮釈放』『赤い人』など知る人ぞ知る、すぐれた作品も多い。戦史の裏側や知られざる人物の描写など、その着眼や深い取材に驚かされ、引き込まれる。
あまり知られていないかもしれない吉村小説の中で、『週刊金曜日』読者のみなさんにお薦めしたい短編を紹介したい。『遠い幻影』(文春文庫)に収録されている「青い星」。ネタバレになるのでここであらすじに詳しくは触れないが、21ページであっても、戦争に翻弄された家族とその後の人生が描かれ、ずっと心に残る作品だ。
吉村氏が生前に使っていた書斎を移築・再現し、資料を展示する「三鷹市吉村昭書斎」が3月に東京都三鷹市に開館した。ぜひ訪れてみたい。(小川直樹)
▼昨年4月14日号からスタートした「週刊金曜日サポーターズ」が、2年目を迎えました。サポートのひとつひとつに感謝申し上げます。1年間でサポートをお寄せくださった方の総数は686人。内訳はネット経由が160人、郵便振替が526人です。
ネットの利点はメールアドレスをいただけるので、メルマガ「サポーターズ通信」をお送りして直接コミュニケーションできることです。郵便振替の方にもメールアドレスの登録をお願いしていますが、登録された方は約1割にとどまっています。
サポートは、連載ルポ「『本多勝一のベトナム』を行く」をはじめ、誌面のコンテンツ力を高めるために活用させていただいています。それだけでなく、当社の経営改善にも役立っています。多くのメディアと同じように、金曜日も本業の雑誌、書籍の制作と販売だけでは構造的に赤字となっています。『週刊金曜日』存続のために、一人でも多くの方のご支援を引き続きお願いします。(円谷英夫)