週刊金曜日 編集後記

1474号

▼6月から実施される所得税と住民税の定額減税を巡り、所得税の減税額を給与明細に記載するよう、政府が企業などに求めている。「手取りの増加を実感してもらえるよう」とのことだが、企業の経理担当者らの事務作業の負担は増すという。ネット上で「なぜ減税分だけを記載するのか?」など批判が出て、野党も追及している。

 誰がどう見ても、政権浮揚につなげたい思惑が透けていて、姑息な感じがする。一方でパーティ券裏金事件の真相はうやむやで、政治資金規正法改正の自民党案も踏み込み不足の中、政権浮揚ができると政治家たちは本気で期待しているのだろうか? 岸田文雄首相の思惑として、定額減税効果を追い風にし、9月の自民党総裁選を前に、衆院の解散・総選挙に打って出るのでは、と永田町ではささやかれているという。

 総選挙があるかは不透明だが、いずれにしても岸田首相の今の総裁任期は9月で終わる。本誌でこの動きをどう報じるか、同僚たちと議論をしているが、今年はどのような夏になるやら。(小川直樹)

▼ジェンダー不平等にまつわる問題と正面から向き合うNHKの朝ドラ『虎に翼』に魅了されている。

 今でいう司法試験に合格した主人公が、学問をする選択肢すらなかった女性たちに言及した上で「女ってだけで、できないことばっかり」「生い立ちや信念や格好で切り捨てられたりしない、男か女かでふるいにかけられない社会になることを私は心から願います。いや、みんなでしませんか? しましょうよ!」「そのためによき弁護士になるよう尽力します。困ってる方を救い続けます。男女関係なく!」と怒りの演説をした日には「感動した?」という感想が友人間で飛び交った。

 そして「この台詞に感動するってことは100年経っても社会が変わっていないということなんだよね」と認識しあう。実際、入試差別があり賃金格差も続く。性別役割意識は根強く残る。ただ、こういうドラマが放映できる程度には社会は変わった。だから諦めずに進むしかない。そんな時代もあったのかと驚かれるくらいにみんなで変えましょうよ!(宮本有紀)

▼本誌30周年の連載「『本多勝一のベトナム』を行く」は名古屋の風媒社から出版する予定だ。私が現地取材から学んだことは、侵略や加害に対する歴史的視点を抜きに停戦や和解を訴えることは、逆に構造的暴力になることだ。ガザの民衆抵抗は昨年10・7に始まったのではない。起点はシオニズムによるナクバだ。闘っているのはハマースだけでなくパレスチナ解放勢力の民衆だ。ロシアはウクライナを侵略したが、ウクライナはモスクワを侵略していない。ここでは市民と労組の戦線が、侵略者とゼレンスキー政権の新自由主義に対して両面戦争を展開。侵略をやめれば戦争は止まる。

 東京・西早稲田の「女たちの戦争と平和資料館」(wam)は8月14日、シンポジウム「和解という名の暴力」を開催する。本誌でハマースへの「イスラム過激派」との刻印を批判する早尾貴紀さんが自称リベラル派の「和解論の欲望」を分析。ジェンダー研究者の古橋綾さんが、アジア女性基金などに見られる、加害国による「和解の論理」を撃つ。(本田雅和)

▼5月3日、大韓民国全北道益山市で行なわれた、武王行幸パレードに参加した。韓国時代劇「薯童謡」でおなじみのソドン伝説を現代に伝える、4日間にわたるソドン・フェスティバルの中核イベントだ。ソドンは、百済末期の王、武王の幼名だ。

 愛知県の市民団体「現代の朝鮮通信使あいち」が復刻した朝鮮通信使の装束をお借りして、大通りを歩いた。日本から朝鮮通信使がやってきたという想定だ。

 着物も着たことがない私。韓国時代劇の装束を着るのは気恥ずかしく、うつむき加減に歩いていた。それが、アナウンサーが「日本から参加したみなさんです」と紹介すると、沿道から拍手が起きた。すっかり気をよくした私は、手を振って応えた。まるでヒーロー気取り。お調子者である。

 益山郊外の春浦には日本統治時代の農場の跡があり、幹部の自宅や精米工場の建物が現存する。収穫された米は郡山港から日本に送られたという。そんな土地柄で、私たちに拍手をしてくれた益山市民の心が嬉しかった。(円谷英夫)